法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『声優ラジオのウラオモテ』雑多な感想

 同名ライトノベルを原作として、2024年4月から放送されたTVアニメ。橘秀樹監督、CONNECT制作という『武装少女マキャヴェリズム』などと同じ体制。

 珍しく原作を先に読んでいるライトノベルのTVアニメ化作品。もともと声優にも声優ラジオにも興味が薄いし、必ずしも傑作と思って読んでいるわけでもないのだが。


 ストーリー構成は、原作の第1巻から第3巻にかけてを1クールで映像化。原作ではフィクションらしいアンリアルさだと思っていた第1巻*1の正体暴露や謝罪配信が、現在に映像化してみると案外とリアリティを感じたのは面白かった。第1巻の感想を書いた直後から迷惑系YOUTUBERが有名人から一般人まで追いかけまわす問題をいくつも見てきたし、それを周囲や官憲が即座に止めることができないことにも今となってはリアリティを認めざるをえない*2。専門家があつまり大人が矢面に立ちながらグダグダな記者会見も現実に複数あったことと比べれば*3、謝罪をラジオに注目をあつめるコンテンツとして利用するくらいならずっと善良だ。
 さすがに第2巻のクライマックスは映像化しても説得力がなかったし、感動的な音楽を鳴らしても状況そのものの無理を感じざるをえなかったが。第7話のCパートを見ても先輩声優の真意や正体を重視してアニメ化したようだし、いっそのこと勝負は実行しない方向に改変しても良かったのではないか。いったん完結した時のコミカライズのように。


 メインキャラクターの葛藤ばかり前面に出がちな原作とくらべて、モブに存在感が出ているところも興味深い。原作は主人公コンビどちらかの視点で描かれて饒舌に内心を語っていることに対して、アニメは全体的にディテールを落としつつモブに顔と名前と声優をあたえることでメインとサブとモブの格差が弱まっている。
 おかげで予想外に良かったのが第3巻の音響監督だ。原作を読んだ時点では明確な指針を出せずに仕事を長引かせるハラッサーとしか思えなかった*4。しかしアニメでは終始おだやかな声と表情で対応していることが明確化され、相手の状態をはかって妥協も選択しており、人の上に立つ資格のある大人と感じられた。あくまで原作との相対評価ではあるが*5。細かな指示も具体性があるし、できるだけ人数が少ない状況で注意しているし、先輩声優に批判された主人公をおもんばかりつつ悪役をつくらない気配りもできている。そしてそのように音響監督に妥当性がある状況だからこそ、合格できない主人公が失敗していることにも実感がわく。
響け!ユーフォニアム3』が同時期に放映されたことも大きい。生徒の自主性にまかせる形式で追いこんでいく滝という顧問のふるまいとくらべて、こちらの音響監督は自覚的に仕事で上の立場として指示しつづけるので、同じように子供を追いこんでも自覚的と受けとれる。


 映像作品として見ると、作画はそんなに良いわけではなく、かなり作画のディテールが簡素だが、撮影効果でグラデーション等の情報量を増やして、画面は成立している。歌唱ライブなどのポイントは止め絵で逃げずに動かしているので、定期的にアニメとしての見どころもある。何より作中作できちんとメカアニメーターを呼んで全ての原画をまかせて本編よりも作画を良くすることで、傑作あつかいされることに説得力を映像で生みだせていた。作中作をつかうアニメはすべて同じ方針でやってほしい。
 あまり原作では差別化できていなかった主人公のギャル姿が、赤いネイルを見せつけたりして説得力を増していたところも良かった。ただし夕暮夕陽のギャル変装を除いて、全体的にキャラクターが髪色を変えないので、正体がわからないことに説得力が欠けたり、視聴者を騙すトリックが成立しなかった感もある。たとえば監督の髪は派手に染めても良かったし、逆にアニメーター時代は散髪する余裕がなくてだらしなく伸ばしていても良かったのではないだろうか。
 声の演技についてはよくわからないが、主演声優コンビが比較的に新人なためか、それとも声優をテーマにしているための意図的なディレクションなのか、全体的に演技が少し生っぽいところは印象にのこった。宮崎駿作品ほどの過剰な生っぽさはないが、先述した『響け!ユーフォニアム3』くらいの生々しさをとりいれている感じがあった。