女らしさを求める母親への反発で学業と仕事にのめりこんで、家事はすべて既存の製品や電化器具にまかせている女性。それを夫も子供ふたりも認める一見すると幸せな家族の崩壊と再生を描く、のだが……
パッと見の印象は安っぽい縦読みカラー漫画形式。しかし結末がすごいという話題を見かけて、全4巻がまとめて無料だったこともあり、読んでみてたしかに驚いた。
作者はエッセイ漫画から出発したらしいぱん田ぱん太。その先入観がAmazonレビューの低評価をまねいたようだし、評判を聞いて読んだ側の高評価を生んでいる。
シンプルな絵柄からのサプライズなサスペンスで家族の地獄が描かれるところで『連ちゃんパパ』*1を思い出したが、ざっと見て絵の巧拙は大差ある。正直にいえば『娘の弁当が気に入らない』は無料のペイントソフトでアマチュアが描いたイラストをならべたようにすら見える。
しかし登場人物が少ないとはいえキャラクターの見分けがつかないところはなく、時系列や位置関係で混乱することもない。漫画を成立させる技術は実は必要充分にある。
物語は家父長制を内面化した女性三代の地獄のようなエッセイとして読めるし、社会の理不尽に抵抗しているようで理不尽な怒りを娘にぶつける主人公の醜態を楽しむ俗悪な漫画として読める。終盤までは主人公の問題を解体して家族を再構築するエッセイ漫画のように普通に楽しめるかもしれない。
この種類の漫画として地味にうまいのが、子供のなかで兄が主人公に違和感をもって定期的に状況を動かして単調さを防いでいること。おかげで展開はパターンでもふりかかる危機にはバラエティがあり、主人公の秘密があばかれるかどうかというサスペンスが持続する。ヒッチコック監督がいうように、どれほど凶悪な犯罪者でも失敗しそうになれば読者は感情移入してしまうものだ。兄の介入が妹の弁当作りに方向性を示唆するという手法なので、展開がタイトルから外れることもない。
そして結末はどんでん返しがあると知らされてハードルを高くした状況で読んだが、先述したようにそれでも驚かされた。
念のため、この真相自体もひとつのパターンではあるし、私個人も使用したことがあるくらいだ。しかし伏線にあたる異常な部分が、エッセイ風漫画の定番なので見逃しやすいところと、その異常さに目をつぶらないと話が進まないので目をそらしてしまうところがある。
油断したところに真相をさしこむタイミングもうまく、それでいてパターナリズムというテーマに一本筋がとおる。