法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

日本社会のいくつかの問題で#MeTooを訴えた伊藤和子氏に対して、韓国社会の問題で必ず#MeTooを訴えないとダブルスタンダードだという人々

WEBメディアのアゴラにおいて、編集部名義で下記のような記事が掲載された。韓国での日本人女性への暴行に言及しないMeToo賛同者を非難する意見に同調するものだ。
韓国で日本人女性暴行被害も、MeToo関係者沈黙がやり玉に – アゴラ

日本のネット民から不満や指摘が相次いでいるのが、かつて「#MeToo」運動で女性への暴行やセクハラなどに抗議の声をあげた日本国内の関係者が、今回の事態に言及する姿があまり見当たらないことだ。
暴行の動画がネット上にアップされたのは23日だが、日本国内の#MeTooの旗手だった国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ」は26日夕方現在、公式サイトで特に言及した記事はアップしていない。

あらゆる問題を批判しなければひとつの問題を批判してはいけないという主張は、「そっちこそどうなんだ主義」*1と呼ばれる詭弁の一種だ。


抗議を発信するのは在住する社会が中心という選択も一般的で珍しくないが、そもそもヒューマンライツ・ナウは個別の性暴力に対する声明は基本的に出していない。
認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ Human Rights Now
過去の国外に対するさまざまな「声明」を見ても、基本的に公権力や業界全体の反人道性に対して抗議がおこなわれている。
【声明】ヒューマンライツ・ナウは、カチン紛争下で市民の保護を訴えた3名の活動家の有罪判決の撤回をミャンマー当局に求める | ヒューマンライツ・ナウ
【声明】王全璋弁護士に無罪を! | ヒューマンライツ・ナウ
【人権理事会声明】「タイの家禽産業における過酷かつ広範な人権侵害」という声明を提出しました。 | ヒューマンライツ・ナウ
日本国内もふくめて、権力がかかわらないような個人の犯罪そのものへの抗議は基本的におこなわれていないと見ていいだろう。


アゴラ編集部の記事は、NGO事務局長でもある弁護士の伊藤氏が療養中に即座に反応しなかったことや、事件に言及するツイートでハッシュタグを使っていないことを「淡白」と論評する。

さすがに事案を放置するとまずいと思ったのか、「韓国司法当局は厳正な捜査をすべき」と手短くツイート。それでもハッシュタグを使い、お得意の#MeToo を拡散するまではせず、随分と淡白に思える対応だった。

過去の伊藤氏があらゆる日本社会の事案をハッシュタグで拡散していることを確認して、アゴラ編集部は普段と異なるかのように論評したのだろうか。
そうだろうと思いたいが、実際の伊藤氏は日本もふくめて、個別のニュースに対してはハッシュタグを用いない紹介ツイートが多い。今回の韓国が特別ではないのだ。

ハッシュタグを使うツイートは運動への参加呼びかけが多いようだし*2、紹介ツイートで使う時はニュースそのものがMeToo関係者の報道が多い。

そもそもハッシュタグをつけないツイートも、他の事案も公権力の恣意性や、組織的な隠蔽が疑われるものが多い。韓国での暴行事件でも「韓国司法当局」に対して意見している。
あくまでMeTooは無視や抑圧されている問題で声を上げるための連帯運動である、ということをアゴラ編集部は理解していないのではないだろうか。


ちなみにアゴラは日本軍の慰安所制度で虚偽を流布*3する池田信夫氏がたちあげ、いまもその偽史に満ちた文章*4を載せるような媒体だ。
それが500usersを超えるはてなブックマークを集めながら、編集部への同調がけっこう多いことも怖い。
[B! MeToo] 韓国で日本人女性暴行被害も、MeToo関係者沈黙がやり玉に – アゴラ
特にひどいと思わざるをえなかったのが下記コメントで、はてなスターも複数集めている*5

b:id:stand_up1973 財務次官のセクハラ発言には大騒ぎ、お仲間ジャーナリストの性的暴行には個人ブログでひっそり。そんなもの。https://news.yahoo.co.jp/byline/itokazuko/20180424-00084365/ http://worldhumanrights.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-3433.html

「個人ブログでひっそり」と書かれているブログエントリは、広河隆一氏の性暴力告発に関するものだが、伊藤氏は告発以前に当事者から相談を受けた立場として報告している。

 記事掲載の直前に、被害者のお一人から、被害にあったこと、他にも被害に遭った方々がいること、信頼のおける方の取材に応じる形で告発する予定であることについて話を聞きました。

 私は、被害者に対するバッシングや、個人を特定されるなどといった二次被害が、報道直後に発生することのないように、できる限りのことをしながら、今日まで推移を見守ってまいりました。

被害当事者の相談を受けて告発を支援している立場で、外部から事件を論評することと比べて制約がかかるのは当然だろう。これで伊藤氏個人が意見を出さないからと告発を助けていないと主張するなら難癖というしかない。
しかも、YAHOO!個人記事で事件を論評することが「大騒ぎ」だというなら、実際には伊藤氏は検証体制への詳細な批判をYAHOO!個人記事に掲載している。きちんと「大騒ぎ」しているのだ。
遅れる真相究明と社会的議論の欠如・DAYS JAPAN 広河隆一氏の性暴力に対する検証への疑問(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

 その詳細は、弁護士としての守秘義務もあり、お話できませんが、その都度私にできるアドバイスをしながら、事態を見守ってきました。

 社会の糾弾を恐れて何も言わない人もいるのかもしれません。それでも、かかわりのあった方々やDaysに関係してきた方々は口を閉ざすべきではないし、社会的な議論を深めていくことが必要だと痛感します。(了)。

この6月に掲載された記事を読めばわかるように、伊藤氏は継続して被害者への支援をおこなっているのだ。
逆にこの記事を無視していることから、伊藤氏を「そんなもの」と論評したりそれを信じるような人々こそが、実際の性暴力に興味をもたず、被害者を利用しているだけといわざるをえない。


念のため、国際的に有名なNGOの事務局長としての責任を強く問い、さらなる努力を伊藤氏へ要望することが必ずしも悪いとはいわない。しかし支援の事実を隠すような非難は、支援を無力化するかたちでの性暴力への加担だ。
ただ、引用してきたような伊藤氏への強い非難をおこなう人々は、自身の論理と倫理にしたがって数多の社会問題ひとつひとつに必ず抗議の声をあげてくれるかもしれない。期待はしないが要望はしておく。

*1:「表現の不自由展・その後」と「そっちこそどうなんだ主義」 - 法華狼の日記

*2:統計的な調査までは難しいが、少なくともここ1年間はNGOの宣伝自動ツイートを考慮しても除外しても、その傾向がうかがえる。

*3:そのひとつは池田氏が高木健一氏に謝罪するかたちで裁判が和解した。池田信夫氏と藤岡信勝氏への高木健一氏による名誉棄損訴訟が和解したとの報 - 法華狼の日記

*4:軍が慰安婦を集めさせたことを明記した新発見の資料を「軍が慰安所を管理していたという既知の通達」と誤った説明をしたあげく、前述のように謝罪した高木健一氏が金学順氏を「韓国で募集した」などと新たな虚偽を流布しているのに、はてなブックマークでまともな批判がされていないことが驚かされる。[B! 韓国] 日韓の対立をあおったのは誰か – アゴラ

*5:b:id:voodoo5氏、b:id:REV氏、b:id:hihi01氏、b:id:metamix氏、b:id:contrapunct氏、b:id:yamigome氏、b:id:sds-page氏、b:id:moegi_yg氏、b:id:nitsuite氏、b:id:gremor氏、b:id:urananakyu氏、b:id:frothmouth氏、b:id:ameo4795氏、b:id:Hige2323氏、b:id:y-wood氏、b:id:flatfive氏の16アカウント。