法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

もしも支援団体Colaboへの監査で不正が見つからなくても請求が認容されたことが重視されるべきなら、たとえば不起訴処分になった人物でも書類送検されたことを重視すべきだろうね

 まず半年前に書いたエントリから、Colaboの監査結果とその後の状況について刑事犯罪でたとえた部分を再掲しよう。
形式的に「当たり前の権利は保障されるべきとして暇空茜を支持する」というなら、「当たり前の権利は保障されるべきとして仁藤夢乃を支持する」ともいえるよね - 法華狼の日記

 仁藤夢乃氏が代表をつとめる支援団体Colaboへの監査では、会計のミスはあっても横領などの不正は見つからず、補助金の返還も必要ないと認められた。その結果を不服として監査請求者は住民訴訟をおこなっている。

 刑事犯罪でたとえるなら、逮捕や起訴されたことをもって有罪の可能性が高いと第三者が判断するまではいいとしよう。しかし逮捕も起訴もあくまで証拠をあつめて判断する過程であって、判決で無罪となった後に逮捕や起訴を根拠として有罪あつかいしていいわけではない。証拠不十分で無罪になったのではなく、完全なアリバイが見つかったり別人が真犯人とされたなら、なおさらだ。

 念のため、上記エントリでは不正がなかった結果への反論として過程をもちだすことを否定しただけであり、結果にもとづいて新たな主張を構築する余地までは否定していない。


 そして半年後、上記の監査請求者である暇空茜こと暇な空白氏*1がColaboへの名誉棄損で書類送検されたことが各メディアによって報じられた。
 最初に報じたTBS記事は、送検された人物について年齢性別しか明らかにしていない。おそらくColaboの被害と被疑者の根拠薄弱さを重視したのだろう。
【独自】一般社団法人「Colabo」の名誉を毀損か 自称ユーチューバーの41歳男性を書類送検 | TBS NEWS DIG

任意の調べに対し、男性は「SNS上に載せたのは事実だが、ホームページに上げている画像を見て、検証し考察した過程を論評したまで」と話しているということです。

 つづいて報じた産経は人物を特定するハンドルネームを記述し、警察のリークによる報道とうかがえるように書いている。
「暇空茜」名乗る自称ユーチューバーを書類送検 Colaboの名誉毀損容疑 - 産経ニュース

一般社団法人「Colabo(コラボ)」に対して、自身のブログサイトで名誉を傷つけたとして、警視庁新宿署が名誉毀損の疑いで、「暇空茜」を名乗る自称ユーチューバー(41)を書類送検したことが16日、捜査関係者への取材で分かった。検察に刑事処分の判断を委ねる「相当処分」の意見を付けた。

 2022年の暇な空白氏はColabo代表の仁藤夢乃氏が逮捕されるとツイートしていた。実際は自分自身が書類送検される結果となったわけだ。


仁藤夢乃って検索いれたら逮捕って出てきて笑っちゃったけど、逮捕されるとしたら裏とってからなんで最速でも来月以降だとおもいますよ


税金もらって東京で家出少女支援事業やりますっていった経費で高額レストランや東京遠隔地のホテルとかの領収書落としてたのこれ逮捕だろ。もしもしポリスメン?


 もちろん逮捕や起訴だけでなく書類送検も過程のひとつであり、名誉棄損で刑事告訴が受理されること自体が珍しいとはいえ*2それそのものが有罪の証拠になるわけではない。
 伊藤詩織氏が書類送検されたことが話題になった時には、有罪無罪の決定打ではないことが毎日記事で指摘された。
伊藤詩織さんが「虚偽告訴」「名誉毀損」? 「書類送検」報道を考える | 毎日新聞
 ただし今回とちがって、送検を確定する情報は告訴をおこなった山口敬之氏によって発信されていた。

 山口氏は今年10月25日、フェイスブックに「【伊藤詩織氏の書類送検について】表題の件、お問い合わせが多く寄せられているのでこの場を借りてご説明します。伊藤詩織氏が書類送検されたのは事実です」などと投稿。「『ウソや捏造(ねつぞう)や根拠のない思い込みを世界中で繰り返し発信して、私の名誉を著しく毀損し続けている』として2019年6月、伊藤さんを名誉毀損の疑いで警視庁に刑事告訴。同年7月に受理され、今年9月28日に書類送検された」と記していた。

 一方、暇な空白氏の場合は朝日記事*3など他メディアでも警察リークとうかがえる表現が見られる。良し悪しは別として警察の姿勢があらわれていると考えて良さそうだ。
 また、毎日記事は前後して、先に伊藤氏が山口氏に対して民事で勝訴したことも指摘している。性暴力は刑事では不起訴処分であり、民事でも報じた時点で控訴されていたが、名誉棄損は棄却されていた。

 伊藤さんへの性暴力を巡っては、民事と刑事の双方で争われてきた。民事では、伊藤さんが訴えた損害賠償訴訟で、東京地裁が2019年12月、「性行為に同意はなかった」として山口氏に330万円の支払いを命じる判決(その後、山口氏側が東京高裁に控訴)を出した。山口氏側も、伊藤さんから名誉を傷つけられたとして訴えていたが、これについては地裁が訴えを棄却した。

 一方で、暇な空白氏は弁護士の伊藤和子氏を訴えた裁判で負けたばかり。まだ控訴の可能性もあるが、具体的な根拠なくColaboへの批判をくりかえしたことを前提とした判決が出された。
暇空茜氏から提訴された名誉毀損訴訟、 当方勝訴。地裁判決を公開します。|伊藤和子(弁護士)KazukoIto 東京・神楽坂

女性の権利向上を志向する本件団体の活動に対しても、具体的な根拠を挙げることなく「公金チューチュースキーム」等と批判を繰り返す(甲18,19、乙11~13,16,17,42)中で、公金の不正受給が行われたことを理由とする本件住民監査請求を行った(前提事実)という経緯に鑑みれば、被告において、本件住民監査請求を含めた本件団体に対する原告の諸活動は、社会的マイノリティである女性が行う普及啓発プロジェクトに対する妨害活動に他ならないと信じたことに相当な理由があったといえるから、故意又は過失は認められない。

 山口氏の事件のように刑事と民事の判断は必ずしも一致しないが、報じるメディアの判断材料にはなる。


 なお、すべての監査認容や書類送検について報じる価値がないというなら、それはそれでひとつの立派な姿勢かもしれない。
 しかし現時点での暇な空白氏は、少なくとも伊藤詩織氏とは状況がまったく異なる。そうした周辺情報もあわせて報道されている。
 仮に、同列ではないものを同列であるかのように報じるべきと主張するなら、それはむしろ公平や平等に反する態度だ。

*1:はてなアカウントはid:kuuhaku2

*2:www.panda-gy.com

*3:Colaboをブログで中傷の疑い、「暇空茜」名乗る男性を書類送検:朝日新聞デジタル「捜査関係者によると、男性は「暇空茜」の名前で活動している。」