法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ヴェノム』

墜落した宇宙船を救助する人々から、重症なはずの乗組員が歩み去った。
一方、サンフランシスコの記者エディ・ブロックは、富豪カールトン・ドレイクが慈善活動に隠れて怪しい活動をしていることを取材しようとする。
しかしエディは恋人アン・ウェイングの情報を盗み見ていたため絶交され、職も失ってしまう……


ゾンビランド*1ルーベン・フライシャー監督による2018年の米国映画。原作は、もとは悪役だったキャラクターをアンチヒーローとして独立させたアメコミという。

一応、YOUTUBER的な軽いエディと、口の悪い寄生体ヴェノムの、後先考えないバディ物としてはそれなりに楽しめた。
キービジュアルの「凶悪」ぶりに反して、惨殺や食人などは暗示にとどめて全体をブラックコメディにしあげているが、そういうジャンルと理解すれば内容の頭の悪さも気にならない。
ヴェノムがトラブルによりアンへ寄生して女性的な姿になり、エディとキスをするシーンなど、シーヴェノムという設定を知らなかったので素直に驚いたし、感心もした。これはアンとの復縁よりもブロマンスを描いたと解釈するべきだろう。


しかし、映像ソフトの表記を見ると約1時間50分の尺なのに、実質的な本編は約1時間半くらいしかない。MVのようなエンディングが約1時間半で始まり、少し後日談っぽい描写をはさんでから、長いエンドロールが延々とつづく。いくらなんでも2時間に満たない娯楽映画で約10分以上のエンディングは長すぎる。
それで物語がシンプルにまとまっていれば良いのだが、あまり機能していないキャラクターが多い。良心のため富豪を裏切ろうとした女性科学者ドーラ・スカースはあっさり中途退場してしまうし、アンの新しい彼氏ダン・ルイスは主人公を助けもする誠実な人物なのにフェードアウトしたまま物語が終わる。
ドーラとダンは同一人物に整理することができただろう。あるいはエディとドーラ、アンとダンのダブルコンビが裏と表で事件を追う展開などもできたはずだ。いかにもヒロインなアンだけ活躍するより、地味な眼鏡白衣のドーラが理知的なヒロインとして活躍しても現代的になったのではないか?!


また、ソニー系のマーベル映画らしく、映画単体で物語が完結していることは良いのだが、その内容には既視感があってしかたなかった。
ひょんなことから凶悪な宇宙生物に寄生され、共生関係から意図せずヒーロー的な活躍をしていく発端から『寄生獣』を連想していたが、エディ以外に寄生できないからとヴェノムが共生の理由を語るあたりで似すぎているという印象に。
さらに敵となったカールトンが人類こそが寄生者だと主張して滅ぼそうとしたり、そこから寄生体から刃を生やして戦うクライマックスにいたっては、比べた時の新味がほとんどない。
もちろん盗作というほど細かく真似しているわけではないし、『寄生獣からして先行するSF映画の影響が色濃いわけだが、それにしても現代ハリウッドならではの新しい観点は期待していたのだが。


VFXアクションとしても、ヴェノムが変幻自在の寄生体ゆえに3DCGで作られたキャラクターということが明らかで、実写というよりアニメを見ているような印象が残った。漆黒のキャラクターなのに、暗いシーンのアクションが多いのも見づらい。良かったのはカーチェイスくらいだ。
何よりヴェノムのライバルとなる寄生体ライオットが銀色で、やはり暗いシーンでの活動が多いため、説明しないと黒っぽく見える。そのためクライマックスシーンで戦う寄生体が区別しづらい。どうせ原作から設定を変えるなら、静脈の赤と動脈の青がいりまじった体色にして、スパイダーマンっぽく見せるシャレくらいやっても良かったのでは。