法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』

いつものようにテンジョウをしりぞけたプリキュアたちだが、怪盗ユニでもあるキュアコスモが刑事アンから逃げるため宇宙船をつかってしまった。
住居でもある宇宙船を失った羽衣ララは、星奈ひかるの家へお泊り。そんなふたりの生活に、まぎれこんだ不思議な生物ユーマがかかわってくる……


TVアニメと同時並行で2019年10月に上映されたアニメ映画。田中裕太が監督、田中仁が脚本をつとめた*1

上映時のTV本編では、新登場した怪盗ユニという複数の顔をもつキャラクターを何話にもわたって紹介し、さらにゲストキャラクターとの一話完結のドラマも通常どおり進めていたため、最初に星奈のパートナーになった羽衣の描写はほとんどなかった。
そこを映画ではいったん怪盗ユニを警察アンの追跡でまとめて退場させ、天宮と香久矢も修学旅行で沖縄へ退場させて、星奈と羽衣がふたりで奇妙な存在と絆をはぐくむドラマを展開していく。
もともとTV本編でも登場人物をしぼった作品だったが、この映画ではゲストの敵も前半まで登場させず、じっくり少人数でさまざまな場所へ旅をする時間の長さを体感できた。
瞬間移動で次々に違った地域へ行く楽しさとトラブルの連続がテンポ良く楽しい*2。天宮と香久矢が旅行していることが旅のきっかけになるところも、出番の少ないキャラクターに存在意義を生んでいる。


先に星奈が主人公らしくユーマと早々に仲良くなり、最初は違和感をもって距離をとっていた羽衣が旅先でユーマと心をかよわせる。
戦いの後でユーマの正体を説明され、最初から自立している星奈が別離の場面でも凛々しくふるまい、逆に羽衣が愛着をさけぶようになる。映画としては短めの一時間半に満たない時間で、しっかり心情の変化を描ききった。
とはいえ、ユーマをねらう5人のハンターを倒して逮捕したところで普通に終わるだろうと思っていた。それでもTVアニメの劇場版として、ゲストキャラクターとの出会いと別離を描いた定番ストーリーとして、それなりによくできた作品になったろう。


しかし物語はひとつの戦いが終わってもスケールを広げて続き、プリキュアを応援するミラクルライトも戦いとは異なる目的でふられることとなる。
星奈と羽衣の目の前に出現する光景は、ユーマの思いがかたちになったもの。設定はファンタジーでも、それにそって展開されるビジュアルは、SFらしいセンスオブワンダーだ。
そして星奈と羽衣の結論は、別離を甘受するのではなく、拒絶するのでもない。ゲストキャラクターを愛玩するメインキャラクター側ではなく、ゲストキャラクター側に主体があることを認めていく。
そうして物語は別離のドラマではなく、巣立ちのドラマとして完結した。親子で鑑賞するファミリーアニメとして、育児の苦労にとどまらない視点があって、予想外に見ごたえあった。


映像面では小松こずえが共同でキャラクターデザインに入り、作画監督も担当。やや太めのメリハリある描線が力強い。アクション作画もTV本編より力が入っていて、必要充分な見せ場になっている。
しかし目を引いたのは旅行シーンのレイアウトと、クライマックスの3DCG。特に後者はカメラワークなどの必要にせまられてのこととはいえ、ドラマを支えるレベルで目線の芝居などをおこなっていて、技術の進歩とそれをひきだす演出の力を感じた。

*1:2015年の傑作『Go!プリンセスプリキュア』の中核スタッフ。

*2:ちょっと『ドラえもん』の「スリルブーメラン」を思い出した。 hokke-ookami.hatenablog.com 冒頭の小さなユーマが部屋を転がっていく描写は短編映画『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』のようでもある。