法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「拷問禁止委員会」を「国連委員会」と表記することが誤報なら、「NGOイベント」を「国連イベント」と表記するのはもっとひどい誤報では?

軍艦島で強制労働がなかったと主張するイベントが、国連本部で開かれたと共同通信が報じていた。
軍艦島「強制労働なかった」 徴用工問題で国連イベント | 共同通信

炭鉱で行われた朝鮮半島出身者の戦時徴用の実態を巡り、韓国側が主張する強制労働はなかったと訴えるイベントが2日、ジュネーブの国連欧州本部で開かれた。

記事にはこれがどのような団体が主催したイベントか、登壇者もふくめて、まったく固有名詞が書かれていない。
そこで日付などから判断すると、「国際歴史論戦研究所」略称「iRICH」という団体によるものだろう。あくまで会議室で開いたというだけのイベントだ。
【ご支援のお願い】2019年7月 ジュネーブ国連本部 人権理事会 NGOサイドイベント 開催します! |

私たち国際歴史論戦研究所のチームは、世界中から政府関係者やNGOが集まるジュネーブ国連人権理事会に合わせて国連の会議室でNGOイベント「朝鮮半島からの戦時労働者に本当は何が起こったのか~軍艦島の真実」を開催することにしました。

かつて、「日韓合意見直し」を国連関係委員会が勧告したという各社の報道に対して、誤報検証サイト「GoHoo」が誤報だと主張したことがある。
「日韓合意見直し」 勧告したのは国連の委員会ではない | GoHoo

「拷問禁止委員会」は、国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会で、いわゆる人権条約機関の一つ。国連に属する機関ではなく、委員会の見解は国連から独立した専門家のものであって、国連を代表するものではない。

それも「誤報と断定してさしつかえない」かつ「確実に誤報である場合に深刻な悪影響がある」の、「レベル6」の誤報だと評価していた。
正式に国連を根拠に作られつつも中立性を守るため独立している委員会を「国連の委員会ではない」と表現すべきだというなら、はたして今回の共同通信誤報は何レベルなのだろうか。


そして「iRICH」の団体としての性質は、下記のメンバーを見れば推して知るべしというしかない。
メンバー |

会長   :杉原誠四郎

副会長  :山本優美子

所長   :山下英次

上席研究員兼理事:藤岡信勝茂木弘道藤木俊一、松木国俊

専任理事 :岡野俊昭

監事   :荒木田修

顧問   :伊藤隆小堀桂一郎渡辺利夫

研究員  :久野潤

ゲスト・フェロー:田中英道高橋史朗藤井厳喜

事務局長 :越後俊太郎

松木国俊氏は問題の「国連イベント」にも、「国際歴史論戦研究所上席研究員、朝鮮近現代史研究所所長」として登壇している。
しかし著名団体における「日本会議調布支部支部長、新しい歴史教科書をつくる会三多摩支部支部長」という肩書きのほうがわかりやすい。


実際の主張を見ても、共同通信の記事に書かれている根拠は伝聞による証言のみ。

元島民が島の長老やおじらから聞いた話として「朝鮮半島出身者は仕事の後、日本人と一緒に酒を酌み交わしたり、小学校でも子供が一緒に机を並べて勉強したりしていた」などの証言を紹介し、強制労働させた地獄の島というのは完全な誤解だと強調した。

もちろん伝聞でも証言として一定の価値はある。だからこそ、強制連行被害者自身の証言はそれ以上の価値があると考えるべきだろう。
また、紹介されている証言は「朝鮮半島出身者」と「日本人」に垣根がなかったというだけの内容であって、強制労働そのものの否定ではない。そもそも同じ日本人でも、炭鉱夫と事務員のあいだで差別があったものだ。
炭鉱に朝鮮人差別がなかったという産経記事が、方城炭鉱の事務員の証言を使っていて、見えている景色のちがいに頭をかかえた - 法華狼の日記

そして朝鮮人は差別的な現場に追いやられやすいという差別があった。具体的な政策として、方城炭鉱は釧路炭鉱からの強制配転が多く、朝鮮半島から重ねての移動となっていた。

かつての北米の黒人奴隷にしても、生活のなかで喜びを感じる一瞬はあったものだし、なかには主人の主観では家族のようにあつかった事例もある。しかし、それは奴隷状態だったことを否定できる根拠にはならない。