法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語'17秋の特別編』

奇妙な味の短編ドラマを見せる恒例のオムニバスドラマ。今回は30分枠の短編4作に、つなぎのようなショートムービーをはさんでいる。
世にも奇妙な物語 - フジテレビ


「寺島」は同名の短編漫画が原作。『逃走鉄馬バイソン』というタイトルすら知らなかったが、検索するとシリーズ作品の巻末に収録されている独立した作品のようだ。
初連載のアシスタントとして美女がやってきて、浮かれる漫画家。しかし寺島と名乗る美女は、友人だったという奇妙な少女の話をはじめる……という展開から始まるサスペンス。
原作が20年以上前に描かれていることもあってか、サイコホラーとしては手垢のついた展開。アシスタントが友人の姿を否定するあたりから、オチは見えすいている。
しかし暗がりを強調した撮影や、少しずつ増していく異常性という定番はていねいに押さえていて、意外性さえ期待しなければ楽しめる。劇中漫画やニュース番組を活用して、残虐な行為を間接的に表現したのも良かったし、その行為をした動機を中盤の会話劇におりこんで、結末で美女の醜い姿として見せたオチも悪くない*1


「フリースタイル母ちゃん」は、怪しい露天商から買ったリップクリームで他人をラップ調で批判するようになった主婦の物語。
ラップによるDISが周囲にあっさり受けいれられたりと、序盤はコメディタッチだが、最終的に息子をめぐる人情噺へと展開する。日本のラップがよく親に感謝するというフォークロア*2を意識したかのようなオリジナルストーリーだ。
きちんとラッパーに協力をえていることもあってか、路上カルチャーを蔑視せず、その夢を家族として肯定して終わったのは良かった。浅利陽介が刑事ドラマ『相棒』に似た役割りを演じていたのも楽しかった。
ただ根本的な問題として、中山美穂のラップが劇中評価ほど巧いとは思えなかった。ラップをよく聞くわけではないので、趣味者からすればまた評価は違うのかもしれないが。


「運命探知機」は、運命を教える腕時計型の道具を拾った美男子が、女性と知りあって恋をはぐくむ。
SF的な小道具ではじまるラブストーリーとして、2年前の「幸せを運ぶ眼鏡」*3を思い出した。似た脚本を提示したという渡辺浩弐版のオチと類似した内容なので、どうにもオチに意外性が足りない。さすがに女性側も運命を探知していたというほど単純ではなく、テーマそのものからひっくり返しているが、まだまだ踏みこみが足りない。
SFではない現実的な真相を用意するというには、ちょっと真相がアンリアルすぎる。恋愛ドラマらしいロケーションを短時間でつめこんだ撮影が良かったくらい。


「夜の声」手塚治虫の同名短編が原作。大企業CEOの男が、ホームレスの姿で少女になつかれる。
ストレス解消のための逃避としてホームレス生活をつづけている男という、いかにも実力を隠した昼行燈的なキャラクターが、悲劇へと転がり落ちていく。幸福のかたちは人それぞれと理解していたはずの男が、それを失念したことから失敗するという、普遍的な寓話として成立している。
ドラマは時代設定を変えつつ、本筋はそのまま。数少ないアレンジとして、ホームレス仲間の視点を出したのが良かった。二重生活を幻のように演出で強調できて、手紙の移動を自然に見せることもできた。不満があるとすれば、少女との結婚生活の破綻もじっくり見せてほしかったくらい。


他にショートムービーとして、心霊写真風のコント「写真」が2編。写真アプリが現実に反映される「交換」。感情で髪が動くという漫画的隠喩を直喩にした「ポニーテール」。4コマ漫画原作の女性嘲笑的な「女子力」
そして前後編の「ががばば新章」。検索してはいけない言葉「ががばば」をめぐる2015年作品の後日談。POV演出を活用したモキュメンタリーらしい恐怖演出が見事で、笑いに逃げず流血を正面から見せたことに拍手。しかし2015年作品の記憶がなくて、本人役として出演した久慈暁子アナウンサーが前作の出演者というメタフィクション性が楽しめなかったのが、私の問題として残念だった*4。あと、YAHOO!で検索すると恐怖演出がなされていたことも、番組視聴後に検索して初めて知った*5

*1:もちろん、「髪が欲しかった」だけなら「頭部を切断」しなくても可能だろうが、そこまで犯人が合理的でなくても展開から納得はできる。

*2:必ずしも事実とはいえないという指摘も見かけたが。

*3:『世にも奇妙な物語 25周年記念!秋の2週連続SP〜映画監督編〜』 - 法華狼の日記

*4:土曜プレミアム『世にも奇妙な物語 '17秋の特別編』 - とれたてフジテレビ

*5:絶対に検索してはいけない単語“ががばば” 「世にも奇妙な物語」でまさかの復活 (1/2) - ねとらぼ