法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語'18春の特別編』

奇妙な味の短編ドラマを見せる、土曜プレミアム枠で恒例のオムニバスドラマ。今回は30分枠の短編4作と、ガチャピンとムックが客演する冗談のようなホラーショートムービー前後編のセット。
世にも奇妙な物語 - フジテレビ
まずショートムービーだが、主人公が恐怖を感じるきっかけがダジャレだったりするのに、演出は本気で怖がらせようとしているギャップが逆に楽しかった。


「フォロワー」は、SNSでキラキラ女子を演じている女性が、ひとりの熱狂的なフォロワーによって破滅していく。
偽ブランド販売で女性が逮捕された2015年の事件を思わせる設定や、主人公が演じている設定のアカウント「港区OL_ハル」を現実に開設していること等、いかにもインターネット受けを意識したようなサスペンスだった。
港区OL_ハル (@minatoku_haru) | Twitter
しかし、フォロワーのストーカー的な行動が早々に現実離れして、あまりにリアリティを感じない。そのため序盤に出た知人がフォロワーの正体と思いつく展開がミスディレクションとして機能していない。
せめて前半は現実にも可能な手法で恐怖感をもりあげて、SNSの恐ろしさを教えるような内容としても成立させて、段階を踏みながら主人公を転落させてほしかった。


「不倫警察」は、たびかさなる不祥事で不倫が厳罰化の対象になった社会で、ひとりの男が破滅するまでを描く。
ドラッグやイジメを批判する公共広告をパロディしたり、発禁となった不倫を題材にした作品のパロディなどは手間がかかっていた。
しかし根本的なところで、息苦しい社会を批判する寓話として不倫をテーマにするのはどうなんだろう、という疑問がぬぐえなかった。主人公が困らされるといっても、女性に恋慕されるような男性にとってつごうのいい不倫像*1しか出てこず、保守反動なクリエイターの世界観がたれながされているように見えてしまう。エンターテイメントとしても、不倫のかたちでしか愛を成就できなかったマイノリティが登場するような意外性がほしい。
主人公が逮捕されてからテロリズムに巻きこまれるクライマックスもふくめて、不倫は代替可能なモチーフでしかなかった。


「明日へのワープ」は、映画監督志望の若者が目前の障害や挫折に耐えられず、記憶を消去する薬を処方される。その薬で都合の悪い出来事を知覚しないよう逃げるSFだ。
今回はこのエピソードだけ原作がある。小出もと貴『アイリウム』といい、講談社のWEB漫画サイト「モアイ」で第1話が公開されている。
アイリウム/小出もと貴 - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ
見比べると、ほぼ忠実に第1話の範囲が映像化されている。原作では薬を入手する方法がドラッグ関係だったり、「アイリウム」に記憶消去薬以外の意味があったり、主人公が未来で結婚する相手が違ったり、細部に異動はあるもののTV向けに刺激を抑える工夫として理解できる範囲だ。
また、『ドラえもん』によく似た機能の秘密道具「タイムワープリール」があったことも思い出された*2。しかし盗作というわけではなく、同じアイデアでもまったく違った展開を見せる。近視眼的に喜びを反復するために時間を無駄づかいする子供の顛末と、苦難から逃げながら無駄になった時間の重みを痛感する青年の顛末を、比較しながら楽しめた。
紆余曲折した原作と違ってドラマではすぐ夢オチになったが、それも『ドラえもん』的と思えば許せないでもない。そういう薬を処方されたこと自体が伏線ともなっているし。


「少年」は、ひとり暮らしのOLが子供の事故を目撃。その子供は不思議な言動をとりながらOLとの距離を縮めていき、やがてOLは子供に隠されていた真実を知る。
てっきり子供はOLの子供で、幻覚を見ているサイコサスペンスか、未来から来たタイムスリップか……と予測しながら見ていると、予測とは違うオチだった。前半のホラーっぽさが良くできていたので、うまくミスディレクションされた。
オチにしてもジャンル類型ではあるが、予測を外したおかげで意外性を感じて、伏線の多さに納得感もあり、オーソドックスな内容なりに楽しめた。

*1:女性社員が椅子に立って作業している時、椅子を支えに行ってスカートの中をついのぞいてしまうとか、主人公は批判されて当然だろう、としか思えなかった。

*2:2008年に「誕生日は計画的に」というタイトルでアレンジして再アニメ化されている。『ドラえもん』誕生日は計画的に/人生やりなおし機 - 法華狼の日記