法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 '21夏の特別編』

改変期恒例のオムニバスドラマ。「死」というテーマにそった3編をやや長く、最後の1編を短めに軽くしあげていた。
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テーマについて、安易という批判はできるが、短編で視聴者の興味を引くには悪くない題材だろう。


「あと15秒で死ぬ」は、薬剤師が深夜に背後から銃撃された瞬間、時間が静止して死神が話しかけてきた……
奇妙な味の短編で定番の死神ネタ。さらに新型コロナ禍で撮影をするためか、登場人物を限界まできりつめて、物語の舞台も殺害現場と住宅回想のふたつくらい。
しかし、だからこそ予想外に拡張されていく物語がおもしろい。死神に提示された約十五秒の寿命と、すでに腹部を撃ち抜かれている制限のなか、静止した時間で思考だけは許されることで主人公が抵抗していく。
もう珍しくはないものの、『マトリックス』的な静止した時間はビジュアルとしてやはり楽しい。主人公の工夫を見せるため、現場にあるものを活用していく。基本的に映像できちんと見せてから活用しているので、パズルのピースがおさまるように気持ちよく、多少の無理も納得させられる。回想の薬物にも少しひねった真相が用意されていて、主人公の強い人格と、選択の愚かさを実感させる。
いったん主人公の寿命がつきて罠が発動する場面を描いてから、事件の発端となる回想をおこない、あらためて主人公と犯人の頭脳戦を描いていくという時系列の操作もよくできている。普通に見ていればミスリードされるが、見返しても映像にいっさい嘘はないし、後の頭脳戦で登場するアイテムもちゃんと映っている。
原作は創元推理新人賞の短編部門で佳作をとった作品らしい。未読だが、ジャンルに求められる制約を映像化スタッフが誠実に守ったのだろうと想像する。

ダイイングメッセージの限界と、それを逆用した罠というアイデアもよくできていて、特殊条件ミステリの一種として楽しめた。


「三途の川アウトレットパーク」は、ふと気づくと謎の河原にいた男の物語。すぐに自分の死を受けいれるが、唐突な抽選会とショッピングに当惑する……
ここ最近はジャンプ系の短編漫画がよく原作になっているが*1、こちらは同じ一ツ橋グループのサンデーうぇぶりが原作。これも序盤のちょっとしたやりとりが結末で回収されたりと無駄のない短編で良かった。
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物語の舞台は、生前に積んだ徳から来世の得になる要素を購入できる死後のショッピング。虫視点のドローン撮影にはじまり、来世が人間になるのは運しだいという設定の理不尽さにつなぐ。
そんな理不尽な設定が知らされる三途の川は彩度が低いが、ポップなショッピングCMで転調。無機的でありつつも、奇妙な商品がならぶショッピングモールという舞台のおもしろさで引っぱっていく。結末の三途の川を冒頭と見返すと、色彩設計がまったく異なることがわかる。
主人公の青年は重病の治療で両親を悩ませたくないと自殺した少年と出会い、生前に出会った重病を治療中の少女を回想する。少年は少女の魂の姿か何かかと思いきや、あらゆる意味で完全な偶然だった。少女を救うために奪った大金が、実は旅行費ではなく、少年を救うための医療費だった……
大金の真相は見当がついたし、偶然は完全に物語の都合ではある。しかし生前の関係性から同時期に死んだ必然性はあるので、ショートショートとして許容できる。最終的な主人公の決断もふくめて、死というよりも金銭という価値をうけわたしする寓話と解釈するべきだろう。
ただ、生前に徳をつんだ人物の言動はもう少し落ちついた感じが良かったかな*2。徳をつんだ善人が内心で期待していた来世の当てが外れた結果の醜態と解釈すれば、味わいはあるのだが……


「デジャヴ」は、誕生日の朝を普段どおりにむかえた少女が、周囲に違和感をもつ。細かく行動をくりかえす人々、自分を見ない母。そして惨劇が……
イムループが事件捜査のための精神的な再現で、それを知らされる主人公視点のさらに外枠に現実世界がある。この構造から映画『ミッション:8ミニッツ』を連想した。

もちろん描写はまったく違うので、盗作などではありえない。厳密に犯行を再現するのではなく、欠落が多くて登場人物も機械的な動作をくりかえす悪夢めいたタイムループは、先例はあるかもしれないが*3オリジナリティを感じさせる。
記憶にないことは再現できないので手がかりが少ないところ、真相もけっこう納得できるところにおとしこんだ。定番の手法ではあるが、仮想現実を多重にすることで手がかりをそれと気づきにくくしている。真相を知った後で登場人物の言動の意味が変わってくるのも良かった。
ただ、結末のツイストは仮想現実ネタとして定番すぎて、さすがに陳腐と思わざるをえなかった。現実と思われる世界にノイズが入る演出をやってみたいのはわかるが、最後の最後だけは現実と確定させて、少女に衝撃を与えたまま断ち切るように終えるべきだったと思う。


「成る」は、棋士と戦っていた機械が将棋の駒をひっくりかえすと、ありえない駒に成る。棋士の困惑をよそに対局は進んでいくが……
成った駒が棋士の半生を表現して、それをつきつけられる棋士にとって番外戦術となる。ゲーム上の「詰み」が言及されつつも、あまり生死とは関係ないエピソード。この番組でテーマとは直接関係のないコントのようなエピソードをオチのように入れるパターンだ。
しかし電脳戦という舞台に棋士セカンドライフという展開が中途半端に現代的で、笑うに笑えない。しょうもない浮気ネタの天丼オチも、ついつい現実の事件をいくつか思い出して真顔になってしまう……

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ドラマ視聴後に原作を読んだが、生前に徳をつんだ人物の伏線はドラマスタッフによる改変とわかった。このアレンジ自体は良かったと思う。

*3:黒沢清監督『リアル 完全なる首長竜の日』や、低予算ホラー『私はゴースト』が少し近いか。