法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「尻軽」という評価はフェミニズムにおいて「侮辱」にならないどころか、二重三重の「侮辱」になりうるのでは?

外国における日本女性への視線について、Cristoforou氏*1を発端とするやりとりがあった。

上記のやりとりをめぐって、dokuninjin_blue氏とfrroots氏の長い長いツイートがつづいていた。


上記の流れについては、わざわざ私などが口をはさむつもりはなかったが、さすがにid:eguchi_satoshi氏の観戦記の解釈には違和感をもった。
チラシの裏:小宮青識論争観戦記 – 江口某の不如意研究室
まず、「日本人女は」*2と「あなたの国の女性は」との引用時のズレをとがめながら、後段でeguchi_satoshi氏は「あなたの国の女性はなぜ簡単にやらしてくれるの」を「なぜ日本の女性は性的に活発なのか」と要約しているのは、バイアスを疑わざるをえない。
一般的に、「やらしてくれる」という表現は、性的関係における女性の主体性を軽視したものだろう。この違いは論争の当事者となったfrroots氏も指摘している。

eguchi_satoshi氏が自身の要約に「程度のこと」と付記していることも理解しがたい。一応、「真顔で」というteamtanotomu氏の表現から「冗談や侮辱であることを排除している」と解釈をしているが、それだけでは「やらしてくれる」の変更を正当化する理由にはならない。


くわえてeguchi_satoshi氏の観戦記の全体も、要約としての正確性を期待しづらい。元発言にリンクをはっているのは序盤だけで、以降はカギカッコ内が引用か要約かも区別しづらい。元発言が確認できないためfrroots氏へ論難をしかけているかのような文章まである。

多重質問の詭弁だと指摘したツイートは、匿名化されていて事実に対応しているかどうかわからず、詭弁かどうか判断しにくい。

詭弁・誤謬推理かどうかというのは見た目の形式だけでは判断がつかない場合が多い。したがって他人の発言を詭弁呼ばわりするのはかなり慎重になるべきだと思う。

しかし私が見たところ、frroots氏は「詭弁」という断定を明示的にさけて説明をつづけていた。やりとりが進んだ後の評価でもちいた表現は「多重質問の誤謬」だ。

やりとりが膨大なために私が見落としている発言もあるかもしれない。しかしfrroots氏が慎重な表現をつづけていたことは間違いなく、最初に多重質問が指摘された時は匿名化してなかったこともわかる。
eguchi_satoshi氏は「判断しにくい」というが、きちんとやりとりを「観戦」しているのか、eguchi_satoshi氏に原因がないのか、疑問をもたざるをえない。


さて前後して、ようやく本題に入っていこう。
まず、真顔での質問が侮辱となるためには、フェミニズムの解釈では特段の根拠が必要であるかのようにeguchi_satoshi氏は主張する。

これが侮辱であるためには、人は(あるいは「男性は」)その人に関係する女性が性的に活発だという含みのことを言われたらすべて侮辱されていると解釈するべきだ、ぐらいの判断が裏にないと正当化されないが、これを正当化するのはむずかしい。少なくともセックスリバタリアン的な傾向のフェミニズムとは相性が悪いのは意識するべきだろう。
誰かを尻軽(slutty)であると指摘することはふつう悪口であり、これはフェミニズムとは関係なく悪口である。王道フェミニズムの立場からは、誰かが誰かを尻軽だと判断しても、それはなんら悪口とならないと主張しなければならないだろうと思う(もちろんここはいろいろ議論がありえるところ)。

引用文でeguchi_satoshi氏も認めているように、「尻軽」は一般的に悪口として使われている*3。「やらしてくれる」の要約としては「性的に活発」よりも正確だろう。
ここで「貞操観念」を重視する立場からは事実であれば低評価の根拠となる。だから、事実でなければ虚偽の根拠による低評価であることをもって侮辱とみなされ、事実であれば低評価にむすびつく事実をわざわざ開示したことを侮辱とみなす。
一方、「フェミニズム」を重視する立場からは低評価の根拠にはならない。だからこそ、事実であろうとなかろうと低評価の根拠としてもちだすことが侮辱とみなされる。“それはなんら悪口とならない”という主張は、“それが悪口としてつかわれていると判断しない”や“それを悪口としてつかう現状に異議をとなえない”という主張ではない。
「尻軽」を“批判”ではなく“侮辱”とみなすこと、つまり低評価を拒絶するだけでなく低評価の基準をも否定することはフェミニズムの王道だろう。“フェミニズムとは相性が悪い”とは、私には考えられない。


実際に、teamtanotomu氏は「ラッキープッシーとかチープガールとか言われてまっせ」と、明らかに「貞操観念」を低評価の基準にする考えを追認している。
そこで「ラッキープッシーとかチープガールとか言われてまっせ」は友人の発言ではないという解釈を追記して、eguchi_satoshi氏は前後の切断処理をはかっているわけだが、まったく意味を感じない。

そもそもこんな言葉あんまり見たことないけど、どういう世界の友人がいるんかね。これ真顔で発言できる人というのもなかなか想像しがたい。

前後してeguchi_satoshi氏は本文でも、友人の実在性やその台詞のteamtanotomu氏による引用の正確性を疑って*4、「侮辱」という解釈にも疑いをむけていたが、さらに意味を感じない。

友人の外国人が本当に存在しているのか、本当にそういった会話があったのかは判断しがたい。

訳語や表現の選択に快男児先生の(性差別的な?)解釈が入るのは当然。外国語でなくとも、会話のなかで他人の発言を引用するというのは本人の解釈がはいるものだ。

存在しない友人、厳密ではない引用。それを根拠として「海外には貞操観念をしっかり持っていきましょう」「ラッキープッシーとかチープガールとか言われてまっせ」と女性に主張したなら、侮辱を追認する以上の主体的な侮辱だろう。
ここでteamtanotomu氏の友人の発言をtraductricemtl氏が侮辱と解釈したのは、その友人の実在性には疑念をもたず引用の正確性も疑わないという、いわば最大限の好意的な解釈をおこなったからではないか。
友人の実在性にeguchi_satoshi氏が疑いの目を向けるならば、あやふやな根拠をもちだしたteamtanotomu氏を問題にするべきだろう。仮定につきあった人々を問題視する意味がわからない。


相手の根拠をとりあえず正しいと仮定しつつ理路をとがめることが、議論のすすめかたとして間違っているとは思わない。
その意味では、あえてtraductricemtl氏がteamtanotomu氏の価値観に一定のつきあいをして、それがフェミニストに許容される側面を、eguchi_satoshi氏は考慮できていないのではないか。
たとえば私個人は必ずしも愛国者ではないが、愛国者の言動が“国益”を損ねそうな時に指摘することはある。説得のための妥協的な論法であったり、相手の価値観をもって相手の主張をくずす皮肉であったり。


そもそも、冒頭でバイアスを疑ったように、eguchi_satoshi氏こそが保守的な思想を深く内面化しているような気がしてならない。

一般に男性となんらかの関係のある女性の性的な活動が活発であると指摘することは、女性の名誉を傷つけることであり、また、同時に彼女と関係する男性の名誉も傷つける、という考え方は保守的な「名誉の文化」では非常に重要な発想だろうと思うけど、これはフェミニズムとはあいいれない側面が大きいと思う。
男性は女性のナイトやボディーガードであるべきであり、女性が(性的な)名誉を傷つけられたと感じたら戦うべきだ、という考え方は現在も非常につよく、よく北米の映画とかで出てくるシーンであるように思うが、これてどうなのよ。「君、私のレイディーに対する侮辱は私自身に対する侮辱とみなしますよ」「まだ侮辱するか!ならば決闘だ!」みたいな。高度に洗練されたナイトは男フェミニストと区別がつかない、みたいなわけではないと思うしその逆もないと思う。

友人が女性を侮辱した時、その侮辱を男性が批判すると反フェミニズムになるのかというと、それは違うだろう。他者への侮辱を批判することは、その他者が自身に従属しているとみなさなくてもおこなえる。
しかもtraductricemtl氏は「あなた自身が馬鹿にされてる」*5や「喧嘩売ってるのと同義」とツイートしている。女性の名誉が傷つけられたことで関係する男性の名誉も傷つけられた、とはツイートしていない。自国の女性に貞操観念をもとめることを批判しているが、男性は女性のナイトやボディーガードであるべきとは主張していない。
女性を攻撃するなという主張は、そこで女性を防御しろという主張ではない。それなのにナイトたるべしという保守的な名誉の文化と解釈するのは、それをeguchi_satoshi氏が内面化していると疑わざるをえない。


最後に、dokuninjin_blue氏について「ほとんどの主張に説得力を感じ」、frroots氏について「疑問を感じることが多かった」たとeguchi_satoshi氏はいう。
しかしながらfrroots氏がこんせつていねいに争点をひもといた果てに明らかとなったのは、dokuninjin_blue氏は「正当化したい自分の主張」があったわけではなく、「反応を見る」ことができればそれでよかった、という事実だった。
TwitLonger — When you talk too much for Twitter

このようなdokuninjin_blue氏の「主張」から説得力を感じてしまったeguchi_satoshi氏に、ソーカル事件を連想せずにいられなかった。

*1:はてなアカウントはid:saebou

*2:実際の元ツイートでは「日本女」。

*3:あえて女性側がさまざまな意図で自称することはある。

*4:「真顔で」という表現ひとつを重視したことと整合性を感じないが。

*5:jiji on Twitter: "それってあなた自身が馬鹿にされてるんだよ。… "