法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『俺、ツインテールになります。13』水沢夢著

さまざまな性癖*1を力に変えて異世界の侵略者と戦うシリーズの、TV番組ならば1クールひとくぎりにあたる13巻目。
シリーズの序盤をTVアニメ化した制作会社が倒産したとの報を聞き*2、2017年8月に出版されたものを今さら読了したが*3、全キャラクターが活躍する一大決戦として堪能した。

12巻で引いた時は次巻で完結かと思ったが、実際は現時点で15巻までシリーズが続いている。読んでみると、敵首領の正体などの基幹情報は隠されたまま。主人公チームが倒した敵へ投げかけてきた過去の言葉がはねかえってきて、過去のドラマを深く掘りさげてまとめつつも、敵組織をゆるがすほどの新情報は出てこない。
しかし特撮番組パロディ小説らしい再生怪人との戦闘で活劇として楽しませつつ、再生怪人の自我や残存敵部隊の葛藤も描くことで、敵組織内でも群像劇的なドラマを展開。そこから決戦の様相が変わっていくことで、今回は主人公チームが防戦一方なのに展開が単調にならない。
もちろん偏執的なツインテール問答も、あいかわらず魅力的ではある。他には、百合豚きわまりないティラノギルディのうっとうしさが、つきぬけることで最終的には好感をもてたし、けっこう泣けてしまった。


また、会話文の連続には必然性があるべき*4という思想において、ほぼ理想的な作品という良さもある。かなり細部までコンセプトをつきつめて書かれた小説として、展開にも表現にも無駄がなくてリーダビリティが高い。
特に、挿絵が重要なライトノベルならではの、結末のイラスト演出が感動的だ。もともとイラストに限らず、真面目なドラマを展開していくかに見せて頁をめくるとボケで落とすという、頁ごとの文字数を考慮した演出を多用する作品だ。さらにイラストでわかりやすく媒体の特性を活用していて、それが本当に効果的だった。

*1:性嗜好というのとは、ちょっと何というか違う……

*2:状況のきびしくなった制作会社AICから派生した会社のひとつだが、元請け作品でしばしば制作状況のまずさが目に見えるようになっていた。「はいふり」制作・プロダクションアイムズが債務整理 「破産手続き念頭に」 - ITmedia NEWS

*3:ついでに14巻まで読了した。

*4:もちろん会話と会話のあいだに挿入される地の文にも必然性があるべきと思っている。漢字のひらきかた、文字のひとつひとつ、改行の位置、空行、記号、それらすべてに必然性がある文章が理想だ。