米国のグレンデール市に、従軍慰安婦を表象する少女像が建立されている。
それを撤去させようとする訴訟に、日本政府が意見書を出したあげく、少女像の建立を官房長官が批判した。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12865185.html
米国のロサンゼルス近郊グレンデール市に設置された慰安婦を象徴する「少女像」の撤去を在米日本人らの団体が訴えた訴訟の上告を米連邦最高裁判所が受理しないと決定したことについて、「慰安婦(像)設置の動きは、我が国政府の立場と相いれない。極めて残念なことだと考えている」
日本政府は従軍慰安婦問題における人権侵害を世界的に認めており、市民団体がそれを記憶する記念碑を建立することに同意してもおかしくない立場のはずだ。しかしそれは批判の矛先をにぶらせるための建前にすぎず、現政権の本音とは相いれないのだろう。
ここまでは残念ながら予測できることだったが、驚いたのはこの朝日記事に対して、はてなブックマークでid:ywmspdl氏がつけていたコメントだ。
はてなブックマーク - 米の少女像訴訟、菅長官「残念だ」 米最高裁、撤去認めず:朝日新聞デジタル
しょうがないから、被爆少女像を広島と長崎に立てようか?アメリカにそういう事だと教えなくちゃ。広島や長崎で建物だけが壊れたわけじゃない。ケロイドの少年少女、赤ちゃんの像も如何?
もちろん被爆者を表象した像は日本各地に建立されている。抽象的なものばかりではなく、長崎には振袖のまま火葬された少女を記憶する像が建立されている。
朝日新聞の紙面から - 広島・長崎の記憶〜被爆者からのメッセージ - 朝日新聞社
像は96年3月31日、資料館の開館前日に除幕された。始まりは松添さんが74年に描いた1枚の絵。原爆投下から10日後、長崎市内の畑で晴れ着姿の少女2人が火葬される光景だ。
いたましいケロイド姿を再現した像が記念館から撤去される動きに対して、維持するように求める声があがったことも記憶に新しい。
朝日新聞デジタル:被爆者再現人形、撤去を巡り議論 広島平和記念資料館 - ニュース特集
広島平和記念資料館(広島市中区)が被爆者の姿を再現した人形やジオラマ展示を撤去する方針を決めたことをめぐり、議論が起きている。遺品など「実物」の展示を充実させるためだが、市民からは「一目で悲惨さが分かる」と反対の声も上がる。
そして有名な被爆者のひとり、白血病で亡くなった佐々木禎子を追悼する像は「原爆の子の像」と名づけられ、半世紀以上前から広島市に建立されている。
広島市 - 折り鶴と「原爆の子の像」について
像の高さは9メートルで、その頂上には折り鶴を捧げ持つ少女のブロンズ像が立ち、平和な未来への夢を託しています。側面左右の二体は少年と少女と明るい希望を象徴しています。
ここで注目したいのは、原爆の子の像に影響を受け、姉妹像や記念碑が世界中に建立されているという事実だ。その世界には米国もふくまれている。
企画展5
(所在地:アメリカ・シアトル市)
故フロイド・シュモー氏が中心となり、1990(平成2)年に像と公園を造りました。
(所在地:アメリカ・サンタフェ市)
アルバカーキのアロヨ・デル・オソ小学校の3〜5年生の子供たちは、「原爆の子の像」の姉妹像建設のため募金活動を行い、世界64カ国から資金を集め、1995(平成7)年に完成しました。
(所在地:アメリカ・サンタバーバラ市)
1995(平成7)年8月6日、国際平和と安全に関する教育・支援事業を行うアメリカの平和団体の核時代平和財団の事業としてこの庭が造られました。
従軍慰安婦問題の記念碑が米国で建立されたことに対して、米国自身の加害を祈念する碑を要求する意見がしばしばある。しかし実際には少女像以前から米国に複数あるのだ。
もちろん市民の行動は政府の行動ではない……ないのだが、だからこそ市民の意志と、それを支える社会の力強さを感じずにいられない。
なお、記念碑の意義と建立された記憶をおおいかくすコメントを見たのは、今回が初めてではない。ホロコーストの事例を批判した時との連続性を意識しつつ、今回のエントリを書いている。
韓国の少女像を殺すため、アンネ・フランク像を殺す人々 - 法華狼の日記
アンネ・フランクはドイツ国民だったので日本人がわざわざドイツ人の銅像建てる必要はない……などということはけしてない。被害への普遍的な共感として、あるいは加害へ加担した責任として、記憶を刻む意味はある。
しかし同盟国の加害であるホロコーストにとどまらず、自国の被害である原爆*1についても、従軍慰安婦問題と相殺するため無知を露呈したことには、やはり目を疑う。
……いや、もはや意外に思うべきではないのかもしれない。日本政府も、唯一の被爆国という記憶からの提言よりも、米国政府への従属を隠さなくなっているのだから。
http://www.asahi.com/articles/ASK3Y45D7K3YUHBI00W.html
「あなたがここにいてほしい」――。こんな英語のメッセージが添えられた折り鶴が、核兵器禁止条約交渉が続く国連の議場にある日本政府代表の席に置かれている。唯一の戦争被爆国でありながら、会議をボイコットした日本政府に対する落胆と批判のメッセージだ。