法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『孔雀王』

地獄門を復活させようと、700年の時を生きる悪女ラーガが暗躍をはじめた。ラーガは少女アシュラを操り、さまざまな異変を起こす。
裏高野の孔雀と、ラマ僧のコンチェは、地獄門の復活を阻止しようとして、日本、香港、チベットへと飛ぶが……


日本の退魔師漫画『孔雀王』を原作とした、日本と香港の合作映画第1弾。『帝都物語』の一瀬隆重がSFXプロデューサーをつとめ、1988年に公開された。
孔雀王 - 作品 - Yahoo!映画
残念ながら今の日本ではVHSビデオで見るしかないが、原作から離れたオカルトアクション映画としては楽しい作品。荒っぽいアクションとアナログ特撮が全体に散りばめられていて飽きないし、バブル景気の日本や返還前の香港をつかった撮影も今となっては貴重な記録だ。エログロは香港映画としては抑え目だが、そこそこのスプラッターはある。
感情が封印されていると設定されていることもあり、三上博史演じる孔雀は主人公にしては受け身。実質的にはユンピョウ演じるコンチェが主人公となっている*1。悪の手先にされているアシュラを切りすてず、最後まで救おうとする姿が好ましい。
ストーリー全体も意外と少年漫画らしい。シヴァ神の対となるほど強大な悪女が中盤であっさり退場したと思ったら、退魔師組織が世界を救うために個人に犠牲をしいる問題が出てくる。操られている少女アシュラのドラマが、後半で主人公のドラマとして返ってくる構成が真面目。


そして最大の見どころは特撮。スタッフクレジットを信用するかぎり、ほとんど日本国内で制作されたようだが、見ていて醒めるような場面がない。必ずしも質が高いわけではないが、作品の雰囲気に合わせた表現で、全体を通して水準以上に力を入れている。
特に良かったのが中盤のラーガとの対決。工場とオカルトが融合したような巨大セットで、いかにも香港らしいワイヤーアクションから、コマ撮りと特殊メイクをくみあわせたモンスターアクションへ移行。『帝都物語』では少し出しただけで全体から浮いたコマ撮り特撮が、この作品では充分な質と量をもって縦横無尽なモンスターの攻撃を演出する。先に孔雀が小さな妖異と戦う場面を2回コマ撮りで表現して、そういう手法を使う作品だと観客に予告しているのもいい。段階的にコマ撮り妖異と人間をからめていくことで、異質な映像が作品になじむ。
最後に地獄門が登場するミニチュア特撮もまずまず悪くない。その内部で登場するラスボスは黒塗りした半裸の巨人で、今では稚拙と笑う感想も見かけるが、ハリーハウゼン特撮へのオマージュと解釈すれば許せる。ミニチュア特撮で生身の人間を醜い巨人と表現するアイデアは、実写版『進撃の巨人*2のようでもある。
宇宙刑事シリーズで知られるデンフィルムの単純なエフェクト合成も、荒々しいアクションと絶妙に融合している。この作品のリアリティならこれが許されるだろうというラインをうまく超えていた。

*1:後半で明かされる真相を考慮しても、孔雀とコンチェを同一人物に整理すれば、もっと物語が整ったとも思うが。

*2:樋口真嗣監督は続編の『孔雀王 アシュラ伝説』に参加している。混乱の多い不本意な現場だったらしいが。