放映前から一部で話題*1だったタイムループ回。なかなかの佳作だった。
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou/contents/story/0017/
物理学者と猫という組み合わせに、『シュレディンガーの猫』という現代物理の考え方を連想した右京。それは、猫を中が見えないケージの中に入れた場合、「猫が生きている世界」と「死んでしまった世界」の両方が同時に存在し、蓋を開けた瞬間にどちらの世界になるか決まるという考え方。
突然、学内の非常ベルが鳴り、右京たちは“ある人物が死んでしまった世界”へと進む。しかし、その世界は、“午前9時20分を境に同時並行的に存在する世界”のひとつに過ぎなかった。
繰り返される世界は、妄想か、異世界か、それとも時間遡行か!?
かつてクローン人間や巨大素数の解明*2などを題材にしたこともあるドラマシリーズ。初期作品にはシチュエーションコントのようなエピソードもあり、SFネタが登場すること自体は違和感ないものの、実際に並行世界が描かれるエピソードが出てくるとは思わなかった。
しかし、これが予想以上に本格ミステリとしても楽しくできていたし、SF設定にとどまらない妙味も感じられた。
もともとミステリには多重解決物というサブジャンルがある。『毒入りチョコレート事件』を代表として、説得的な推理を展開しながら、考えられる結論がいくつも生まれてしまう物語群のことだ。そうして真実が確定できないとわかってしまうか、あるいは複数の推理をつかって真実に肉迫していくか、さらに複数のサブジャンルに枝分かれしていく。
今回のエピソードでは、事件の全体像に最も近い堀井准教授というゲストキャラクターが、くりかえし第二の事件に立ちあい、少しずつ真相に近づいていく。最初の世界で起きる第二の事件は、第一の事件と同じく窒素充満による窒息死。そのトリックはシンプルなもの。
しかして真相に耐えられなかった堀井准教授は並行世界へ行き、異なる第二の事件に直面する。この人生をやりなおしたいと願う堀井准教授の動機は明瞭であるし、あくまで他より情報を知る人間の逃避的な妄想にすぎないと思う余地もある。シリーズの世界観を崩さず、並行世界をつかった事件解明がおこなわれる。
そうして並行世界への逃避をくりかえした堀井准教授は、最も知りたくなかった真相に直面してしまう。それは最も価値があると考えたものを自らの責任で永遠に失ったというものだった。
手がかりとなる「RT」の伏線も見事だし、その真相はSTAP細胞事件などの時事ネタを想像させつつ、ずっと誠実な人々のドラマとして成立している。
警察ドラマとしても本格ミステリとしてもライトSFとしても充実して、1時間を濃密に楽しむことができた。