法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season18』第9話 檻の中~告発

教授の保釈金を強盗に奪わせたのは准教授だった。発端の教授による横領事件も准教授が捏造したと判明する。
准教授がかつて教授に恋愛感情をぶつけ、断られたことが動機のひとつだと杉下は考えたが……


第8話*1を受けた後編。意外な機械的トリックから、こみいった群像劇、そして正面からの社会派テーマまで、このドラマの良さが出ていた回だったと思う。
小型ロボット研究を、パスワードの盗み見に利用するトリックで伏線を回収したかに見せて、真相へつながる助走だったという展開にまず感心。軍事用ドローンは数メートルある巨大ラジコン飛行機のようなものという先入観があったので、教授の小型ロボット技術が関係してくるとは逆に気づけなかった。
もちろん前編では出資者が迂回企業しか登場しなかったり、テロの瞬間を描写せず過去の出来事として流したり、劇中で進行していることを隠しとおした制作者の力もあった。


かつて横領を告発した正義漢だからこそ、自身の技術が軍事転用されたことに衝撃を受けて、教授は命をかけて告発しようとした。台詞では語られないが、きっと贖罪のためもあったろう。対する杉下の、そうした信念で命をなげだすことこそ戦争につながるという指摘にも説得力があるし、社会悪を告発する確信犯へ珍しく激怒したこと自体にも感動があった。
現実を思えば、ここまで軍事利用を心底から拒絶できる科学者がどれだけ今の日本に残っているだろうかと悩むし、それで命がけの告発がなされても注目される期間はわずかだろうという諦観もある。しかし、だからこそ虚構でひとつの理想を描いたとも受けとれる。
前回に首をかしげた、告発者がたがいに邪魔しているかのような構図は、告発者を守りたいからこそ邪魔をしたという動機が隠されていたという反転も良かった。そこから序盤の推理で犯罪のための操り人形にすぎないと思わせた小型ロボットが、やはり人を救うことができる存在でもあると印象づける。


ただ、杉下が他人の恋愛感情を序盤の推理にとりこんだことが違和感あった。思えば痴情のもつれという動機を杉下が着目することは珍しいし、それがこのシリーズの特色だったなと思う。
また、当惑するしかなかった今シーズンの初回SP*2が、まさか今回の前後編の伏線になるとは、良くも悪くも予想できなかった。同じ題材ではあるが、だからこそ高低差を感じずにいられない。