法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん(3)|藤子・F・不二雄 大全集』

大全集第1期の目玉であった『ドラえもん』の第3巻。
ドラえもん(3)|藤子・F・不二雄 大全集|小学館
ガチャ子の登場エピソードが序盤に集中しており、新鮮味がある。1970年度の連載で単行本に収録されたのは1エピソードだけという異常事態。
以下、各エピソードの簡単な感想を書いていく。サブタイトルに星マークがついているのは単行本未収録。


「★ねずみこわーい(小一 70年04月号)」初期のネズミ嫌いエピソード。ネズミがオモチャの戦車を壊したと聞いたドラえもんが怒るだけだったり、こわがりつつも後年ほど極端ではない。「ネコにもすきずきがあるよ」はドラえもんの弁*1。オモチャの戦車に乗るためスモールライト*2も登場。小さくなったのび太ドラえもんのためネズミと戦おうとしたり、ドラえもんが勇気をふりしぼってオモチャの戦車でネズミを撃退したり、勇気をたたえる内容になっているのは幼年向きのためか。
「★ドラえもん対ガチャ子(小一 70年05月号)」ドラえもんがたよりにならないからと、ガチャ子がどこからともなくあらわれる。第2巻収録の初登場と同じ月に出ているのだが、特にガチャ子の背景について説明はなく、台詞だけでドラえもんと同質なことをにおわせる。幼年向きのためか、途中からドラえもんとガチャ子が協力し、おせっかいとしての迷惑ぶりが強まるのがおもしろい。
「★きょうりゅうが来た(小一 70年06月号)」のび太が見たがっていたからと、ガチャ子が恐竜をつれてくる。部屋につれこんだため「ばか」といわれたガチャ子は去り、残された恐竜をふたりでなんとかなだめていく。トラブルメーカーと事態収拾を2キャラクターで分担する構成。
「★まほうのかがみ(小一 70年07月号)」フエルミラー*3でケーキやオモチャを増やして、さらにはドライブしようとする。驚くべきことに、運転するのはドラえもん。このエピソードのガチャ子は、ケーキをほしがったり、車を運転したがったり、フエルミラーを知らずに自分を増やしてしまったり、秘密道具を知らない幼児のようなキャラクター。
「★いぬになりたい(小一 70年08月号)」球体を割って出てくるガスをあびると動物になる「動物ガス」が登場。のび太は猫になり、しずちゃんにかわいがってもらおうとしたら、「うんとごちそうしてあげるね」「おいしいネズミを」*4と天井裏にほうりこまれる。この連載の流れでは初登場なのに、幼年向きとは思えない強烈なキャラクターが楽しい。そして犬になったのび太は、さらに別の動物になろうとしていたところ、ママに「きゃあ、イヌがばくだんをもってる」*5と叫ばれて外にほうりだされる。ママが秘密道具を外に捨てるパターンの始まりといえるだろうか。
「★ウルトラワン(小一 70年09月号)」テレビから物を出すパターンだが、カラーテレビを持っているというスネ夫の自慢から始まるのが時代を感じさせる。カラーでこそデザインが理解できるキャラクターとして、ウルトラマンのパロディを持ってくるのも歴史を象徴する*6。オチでウルトラワンが迷いこんだ番組で、「これはつぎのばんぐみだ、ニョロメ」*7とニャロメそっくりのキャラクターに怒られるのも、パロディ精神が徹底していて楽しい。ただ、このエピソードはカラーページだからこそ効果的だったはずであり、口絵をのぞいてはモノクロで収録する大全集の方針が残念だった。
「★ゆめ(小一 70年10月号)」他人の夢を見る眼鏡と、夢の物を引っぱりだす投げ縄が登場。いってみれば前回のネタの使いまわしだが、しずちゃんの夢の怪物を退治してあげたり、スネ夫がずうずうしさを発揮して怪物をしりぞけたり、さすがに途中から展開は変わっていく。しかしスネ夫が見ている夢がスーパーマンのパロディなのは、やはり前回のネタの使いまわしな気が……
「★おかしなでんぱ(小一 70年11月号)」ひさしぶりにガチャ子が登場。のび太がまわりから劣っているため、まわりを「ようち」にする「おかしなでんぱ」を発射する*8のび太より劣った人間しかいなくなるパターンにして、もっとも強烈な展開をするひとつ。そのパターンの最初がガチャ子によるものというのはおもしろいが、ドラえもんが物語において機能しないまま終わってしまう。ガチャ子が退場エピソードすら描かれないまま消されたのも、無理からぬことと思わざるをえなかった。
「★かべぬけき(小一 70年12月号)」とおりぬけフープ等の壁に穴を開ける道具ではなく、手にはめて壁に刺してつきぬける道具が登場。はじまりは、のび太しずちゃんに会おうとして番犬にはばまれる*9。しかし、はじめてつかう道具ということでドラえもんがテストをつづけるうちに、のび太を放置してイタズラを始める。原作初期の未収録作品らしく、とおりすがりのジャイアンスネ夫に「やーいばかばか。」*10と舌をだしたりと、のび太をこえた自由っぷりが楽しくはあった。後半からは、野比家にきた客がひどい目にあうパターンがはじまり、原型ながら完成されている。
「かべ紙の中で新年会(小一 71年01月号)」子供たちが野比家にあつまって新年会。家がせまいからとママに拒否されたので、壁にかけた紙の扉から超空間に入りこんで遊ぶ。トイレに行ったスネ夫が事故にあうだけで、ほとんどトラブルなく解決。初期作品で単行本に収録されたものは、こうした全体的にうまくいったエピソードが多いようだ。
「★虫めがね(小一 71年02月号)」見た対象が実際に大きくなる虫眼鏡が登場。ほとんどビッグライトと同じ効果だが、腕時計のネジをさがすために地面を虫眼鏡で見て、小石や砂が小岩のように巨大化した場面がおもしろい。後半も、スネ夫が道具をうばってイタズラするパターンだが、人々の肉体の一部を巨大化したり、ガラス戸で自分を見て巨人化して暴れたり、絵として楽しい場面が多い。問題になりそうな過剰な表現もなく、未収録だったのが不思議。
「★まほうのとけい(小一 71年03月号)」時間をあやつる秘密道具エピソードの原型。デザインが振り子時計なのが時代を感じさせる。劇中作品として今度は「ウラトルマン」が出てくるが、何度も見ようとして時間を巻きもどしていくと、怪獣もウラトルマンもくたびれてしまう。展開としては、後年に「宇宙ターザン」で描かれたものとまったく同じ。未収録なのは、のび太が朝に起きれなかったからとドラえもんが時間をもどした甘さのためか。


「まほうの地図(小二 71年04月号)」目的地に印をつけて体に巻くと、目的地に移動できる地図が登場。どこでもドアがなかったころゆえのエピソードか。しずちゃんにシュークリームを早く食べるようスネ夫がせかし、「うちにうまいものがあると、ドラえもんが来るんだ」*11というのがおかしい。しかしスネ夫が基本的にひどい目にしかあってないから、最後に地図をうばって地球外に出てしまうというしっぺ返しはきつすぎる。
「空とぶさかな(小二 71年05月号)」スネ夫の池の魚にはりあって、空中で魚が生きられる餌を与えて、芸をしこんだり買い物をさせたりする。こちらはスネ夫が餌を盗んでしっぺ返しされるオチに納得できた。外国船の船長をしているおじに「なるべく海のまん中で」*12とたのんだ台詞が深海魚がくる伏線になっている。なお、単行本にも収録されたエピソードだが、これも原稿が紛失。ひょっとして初期作品は単行本に収録した原稿は保存しない方針だったのか。
「役立つもの販売機(小二 71年06月号)」十円をいれると「役立つもの」が出てくる秘密道具が登場。借りた十円で出そうとすると十円玉が大量に出てきたり、宿題をしようとすると教師が出てきたり、非常に万能性が高い。ゆえに金銭的なしっぺ返しではなく、予言の自己成就的なしっぺ返しがオチとなる。
「ソノウソホント(小二 71年07月号)」ついた嘘が必ず本当になるという、これも万能型の秘密道具が登場。パパが秘密道具でいろいろなトラブルに巻きこまれて活躍をしいられるパターンの初期エピソード。のび太のパパとジャイアンの父が戦うことで有名。
「せん水艦で海へ行こう(小二 71年08月号)」水から水へとジャンプする秘密道具が登場。その水のある場所のサイズにあわせて秘密道具が縮小する。ジャンプした先の水場がどのような状況なのかという謎かけや、ミニサイズで金魚鉢や洗濯機のなかを体験する描写が楽しく、けっこう教育的。最後に意外な場所へジャンプするオチもきれい。
「いんちき薬(小二 71年09月号)」夏休みの宿題から逃れるため病気のふりができる薬が登場。いろいろな症状を演じて学校を休もうとするが、最終的にあきらめて学校へ行く。つまり掲載された時期にあわせた教育ネタで、さまざまな症状をめぐるママとのドタバタは楽しく、押しつけがましさや後味の悪さこそないものの、ちょっと展開が一本道で説教臭いか。
「ショージキデンパ(小二 71年10月号)」のび太が双眼鏡を返さないという冤罪をかけられる。そこで相手に真実をいわせる秘密道具を出して、貸してきたスネ夫とまた貸しした本山*13と対峙する。秘密道具を出したドラえもん自身ものび太を犯人と疑っていたり、誰もが隠していた本心があばかれていく。途中のジャイアンリサイタルに秘密道具の電波がとんでいて、観客の本心をいわせてしまうのがオチ。終わってみると、のび太だけが正直だったという構図は新鮮だ。
「ペロ!生きかえって(小二 71年11月号)」しずちゃんのペットを生き返らせようとする、単行本に収録された有名なエピソード。タイムパラドックスが起きないよう、薬をつかうと仮死状態になるのがポイント。けっこう倫理的にあやうい展開だが、低学年向けの作品だったためか。警官が落語のような顛末をむかえるオチも切れ味いい。
「ほんもの図鑑(小二 71年12月号)」メガネザルそっくりと友達に笑われるが、のび太は「ぼくににてるなら、よっぽどりっぱな顔のサルだろ」と怒らない。さらにどのようなサルかたしかめようとするが、図鑑は友人に破かれていた。そこでドラえもんが図鑑をとりだし、ひっくりかえして叩くと、本物が出てくる。「実物ミニチュア百科」とちがって、サイズも同じ。そこで図鑑を友人に見せびらかすと、みんなに奪われてしまった*14。しかし冷静に考えてみると、「オバケ」*15や「おはなし」でオバケやヒーローが出てくるのは「本物」といっていいのか。
「ランプのけむりおばけ(小二 72年01月号)」のび太が何もかも秘密道具に丸投げするパターンのエピソード。しかしけむりのロボット自体のスペックは低くて、うけた命令を他人に暴力で孫投げする。ランプの精がどこかに去ると問題が解決するのは、うまい原作パロディ。やりすぎたロボットを回収した後に、恐るべき相手に命令が孫投げされたことを知るオチも、なかなか恐怖感あっていい。
「雪でアッチッチ(小二 72年02月号)」のちに極限環境で活躍する「あべこべクリーム」が登場。寒がりを笑われたのび太が、クリームを体にぬって冬の街へ出かける。暑さ寒さが反転するのがポイントで、半裸でいるところを雪や冷水で火傷する描写が楽しい。ワンアイデアでも、ちゃんとギャグ漫画として楽しく成立している。
「入れかえロープ(小二 72年03月号)」ロープの端と端をもつと、相手の性格や立場が入れかわる。のび太の肉体でジャイアンの性格になった時、のび太の性格になったジャイアンをケンカでうちまかして復讐できたことになる。記憶が連続していて肉体が同じだとはいえ、このような入れかわりパターンは珍しい。フィクションで典型的なのは、人格がまるごと入れかわる「トッカエバー」だろう。哲学的ゾンビ的なおもしろさがありつつ、表現としては難しかったのか、「スネ夫の無敵砲台」に入れかえロープが登場した時は、トッカエバーと同じ機能に変更されていた。


「ヤカンレコーダー(小三 72年04月号)」のび太がテープレコーダーをうらやみ、シャボン玉のかたちで音声をふうじこめる秘密道具を出してもらう。なぜヤカンのデザインなのかがわからないし、現在はもちろん当時でも現実に代替可能な秘密道具だったろう。シャボン玉を割ると音声が開放される設定で罠をしかける以外は、子供のイタズラをシンプルに描いただけのエピソード。少なくともスネ夫だけでなくしずちゃんもレコーダーを持っており、スネ夫が進んでいるのはカセットテープを海外*16とやりとりする使用法のみ。ジャイアンが自分の歌を録音して聞き返して感動する描写があるが、特に音痴という描写もない。
「テストにアンキパン(小三 72年05月号)」文章や数式を転写した食パンを食べると暗記できるという、有名な秘密道具が登場。シンプルな機能でオチまで一直線の、よくできたエピソード。扇風機で学校を吹き飛ばそうとしたり、動物ライトで教師をゴリラにしようとしたり、本筋と関係ないドラえもんの皮肉な説教も印象的。のび太が意味もなくヤカンと枕をもって困っている姿は、単行本収録時には意味不明だったが、この大全集で読むと「ヤカンレコーダー」とのつながりが感じられる。何かヤカンにまつわる出来事があったのだろうか。
「潜地服(小三 72年06月号)」スネ夫や友人といっしょにつくった戦艦の模型がジャイアンに奪われ、秘密道具でとりかえそうとする。2階へのぼるために木の中を泳いだりと、のび太の運動神経がやや高め。描写もオチも似ている「ドンブラ粉」より単行本収録が遅れたのは、キャラクターが少しブレているためか。
「つづきスプレー(小三 72年07月号)」美術品にスプレーすると、どのように時間経過するかを見ることができる。導入こそ、戦艦をうまく描くため舳先だけていねいに描くというアイデアを使っているが、基本的には美術品を動かしたいという思いつきをそのまま物語にしたような作品。しかし批評的なパロディとしてのおもしろさが存分にある。
「タイムマシン(小三 72年08月号)」夏になれば冬が恋しく、冬になれば夏が待ちどおしい、そんな近視眼をタイムマシンで実行するとどうなるかという思考実験エピソード。新しい秘密道具を出さず、勉強机のタイムマシンを勝手につかうだけというシンプルさでまとめている。
「行かない旅行の記念写真(小三 72年09月号)」スネ夫のハワイ旅行に対抗するため、インスタントで背景を合成できるカメラを活用。それだけだと頁が埋まらないのか、第2巻*17に収録された「ふしぎな海水浴」の秘密道具「どこでもきっぷ」が「電車ごっこ」という名前で再登場する。「ふしぎな海水浴」は長く単行本未収録だったため、つながりが不明だった。
「かがみの中ののび太(小三 72年10月号)」映したものが取りだせる鏡でほしいものをコピーするが、スイッチを切りわすれて大変に……つまりは秘密道具をつかったホラーだが、その描写はやや短め。ほしいものを少額で友人から借りてコピーするような、のび太らしい金銭節約にポイントがある。
「流れ星製造トンカチ(小三 72年11月号)」願いをかなえるための流れ星を、頭をたたいて見える星でつくる。漫画記号を作品にとりいれた、「コエカタマリン」等の先駆的エピソード。願ったことが現実的な範囲でかなったり、他人の頭をたたいて出した星は他人のねがいをかなえたりと、寓話としてもよくできている。ちなみにこのエピソードでは、流れ星に願いをかなえるまじないがあることを、しずちゃんに教えられるまでのび太は知らない。
「重力ペンキ(小三 72年12月号)」子供たちのクリスマスパーティーを、秘密道具と優しさで手助けする有名なエピソード。やはり季節ネタで雑誌掲載されたらしい。後に活用される秘密道具が初登場するが、「インスタントツリー」という秘密道具を先に出したり、「重力ペンキ」の登場が直接的にはパーティーと関係なかったり、読み返すとミスディレクションがしっかりしている。
「★フリダシニモドル(小三 73年01月号)」出た目の数だけ時間がもどるサイコロが登場。正月にすごろくで遊ぶという習慣があった時代の物語。のび太が勝手に時間を戻すだけの展開がつづき、単純すぎる。
「すてきなミイちゃん(小三 73年02月号)」扉絵に「テレビ化決定」*18の文字がおどる。そこで描かれるのが、ドラえもんが主体的に動くラブコメ。ネコ型ロボットだからと猫のおもちゃに恋をする展開に奇妙な説得力があるが、思えば人間が人形に恋をしてもおかしくはないか。必死におもちゃを守るドラえもんの健気さと、おもちゃを秘密道具で自律化させていくSFっぷりが楽しい。オチもふくめて元ネタは『フランケンシュタインの花嫁』だろうか。
「地球製造法(小三 73年03月号)」ジャイアンスネ夫のプラモに対抗して、のび太は「世界ではじめてという、めずらしいおもしろいすごいの」*19を作っていると口走ってしまう。口がすべったとおりにドラえもんがフォローしてやるパターンの初期。地球の誕生をチリやガスの集積から始め、じっくりと生物の進化を追っていく。知的好奇心をそそる情景が勉強部屋で描かれて、再現されたミニサイズの地球で冒険。17頁と長めのエピソードを限界まで使いきっていて、娯楽としても教養としても楽しい回だった。


「うそつ機(小四 73年04月号)」掲載号の時期にあわせたエイプリルフールネタ。ついた嘘を信じさせるだけで、超常的な出来事が起きるわけではないが*20、かなりの大騒動に発展する。火星人がせめてきたという嘘で人々を逃げまどわさせるのは、ラジオドラマの『宇宙戦争』の故事にならったものか。
「スケジュールどけい(小四 73年05月号)」入力したスケジュール通りに人間を行動秘密道具が登場。のび太に計画を守らせるはずが、代理で入力したドラえもんがスケジュールを守らされるはめに。ひたすらひどいめにあうドラえもんがあわれでかわいい。雨のなかを追ってくる秘密道具がなかなか怖い。
「ばっ金箱(小四 73年06月号)」子供たちが共同でつかえるお金をあつめるため、罰金をとりたてるロボットを出す。後年の「税金鳥」等の原型エピソードだが、ただジャイアンから罰金をとりたてつづけるというオチは弱い。ちなみにボールが破れるという導入にあわせて、この時代では珍しくサッカーをしている。
「バッジどろぼう(小四 73年07月号)」空き地に埋めて隠していたバッジが誰かに盗まれ、犯人をさがすというエピソード。タイムマシンをつかって謎解きしたことが、のび太ドラえもんが疑われるタイムループ物。しかし今回は犯人像がいつもと違っていて、それでいて納得感がある。ドラえもんが空き箱でカメラを作っていたり、のび太が図書室で読書して帰るのが遅れたり、探偵エピソードらしく今回はキャラクターの文化度が高い。
「雪山遭難を助けろ(小四 73年08月号)」のび太が遭難者を助けようとして、未来の情報をもらしたくないドラえもんは拒否するが、説得されて「どこでもドア」で助けにいくことを決める。冒頭からシリアスなムードが終始ただよっている珍しいエピソード。ふたりの遭難者を助けるために、ドラえもんたちは気づかれないようさまざまな手段を駆使する。遭難者がたがいを信頼する気持ちを描きつつ、ふたりにとってちいさな謎を残す、抒情的ですがすがしい物語。
「ウルトラストップウォッチ(小四 73年09月号)」ある朝、あわてて多くの宿題をかたづけようとするのび太を、時間を止める秘密道具で救う。世界中を止める秘密道具を手にして、のび太の悪意が首をもたげる。てんとう虫コミックスに収録された「マッド・ウォッチ」に近いが、よりシンプルな機能で、原型的な描写がギュッとつまっている。秘密道具をつかう者だけ時間が進むという考えを使ったオチもパロディ的*21
「ダイリガム(小四 73年10月号)」いいたくないことを他人にかわってもらうガムが登場。野球で近所の窓ガラスを割ったことで、のび太に責任が押しつけられる導入からして、ガムをつかうまでもなく代理させているわけである。誤ってガムを自分につけたのび太が、正面から謝りにいくと許されるオチは、ありきたりなであるが、冒頭の対となっていて納得感はある。
「しあわせカイロでにっこにこ(小四 73年11月号)」のび太を元気づけようと、心があたたかくなりつづける秘密道具をドラえもんが出した。どれほどひどいめにあっても、のび太はにこにこ笑いつづける。麻薬中毒のように笑いが固定されている描写から、ジャイアンスネ夫が「ひょっとしたら、ほんとにえらいやつかも……。」*22と考えをあらためるオチまで、シンプルながら異色短編のような味わいがある。
「ボーナス1024倍(小四 73年12月号)」新しい自転車がほしいとボーナスをあてにしていたが、親は雑費や月賦につかうことを決めていた。そこで現行の定期預金にあずけて、利子でふくらんだ未来の預金をもちかえろうとする。不景気なようでいて、定期預金に10年間あずけていれば2倍になる夢があった時代の物語。銀行に預けたり下ろしたり時間を行き来する過程がしっかり描かれていて、アイデアはシンプルながら楽しい。未来のお金はそのまま使えないため、古銭を買うことで利子が目減りするオチの切れ味も良い。
「タタミの田んぼ(小四 74年01月号)」のび太ドラえもんは、餅の残りひとつを争って、秘密道具で増やすことにする。部屋で農業の苦しみから喜びまで克明に再現する、そのシンプルな楽しさを描いたエピソード。しかし結局259個の餅ができるようになって残りひとつで争うオチだが、考えてみると冒頭のひとつを入れれば偶数になるような気もしないではない。バカなふたりがかわいい。
「このかぜうつします(小四 74年02月号)」大切な会議に行く父を救うため、のび太は風邪を引きうける。さらにその風邪を他人にうつそうとするが、適当な人物が見つからない。こんな時ばかり優しいジャイアンが最高。
かならず当たる手相セット(小四 74年03月号)


お客の顔を組み立てよう(小五 74年04月号)
いやな目メーター(小五 74年05月号)
表情コントローラー(小五 74年06月号)
ツチノコさがそう(小五 74年07月号)
きせかえカメラ(小五 74年08月号)
虫の声を聞こう(小五 74年09月号)
ネズミとばくだん(小五 74年10月号)
くせなおしガス(小五 74年11月号)
ロボットがほめれば…(小五 74年12月号)
ケロンパス(小五 75年01月号)
さいなんにかこまれた話(小五 75年02月号)
カネバチはよく働く(小五 75年03月号)


くろうみそ(小六 75年04月号)
ニクメナイン(小六 75年05月号)
進化退化放射線源(小六 75年06月号)
世の中うそだらけ(小六 75年07月号)
のび太のび太(小六 75年08月号)
トレーサーバッジ(小六 75年09月号)
王かんコレクション(小六 75年10月号)
ベロ相うらない大当たり!(小六 75年11月号)
自動販売タイムマシン(小六 75年12月号)
けん銃王コンテスト(小六 76年01月号)
ニセ宇宙人(小六 76年02月号)
シャラガム(小六 76年03月号)

*1:16頁。

*2:名前は出てこない。

*3:名前は出てこない。手鏡のかたちをしていて、鏡像を落として増やす。

*4:47頁。

*5:50頁。

*6:ただしデザインはウルトラセブンにちかい。

*7:59頁。「ニャロメ」と同じ赤塚不二夫作品の、「ケムンパス」や「べし」らしきキャラクターも同じ画面に映っている。

*8:73頁。なお公式サイトのサブタイトル「クルパーでんぱ」は、大全集では出てこない。

*9:後年のチロやシロとちがい、野良犬のようなデザイン。

*10:79頁。

*11:112頁。

*12:126頁。

*13:読みは「ほんやま」で、本編に名前が出てきた珍しいキャラクターのひとり。

*14:しずちゃんもふくめて!

*15:ここでしずちゃんが出した本物のなかに、オバケのQ太郎が混じっている。

*16:226頁の台詞で「ブラジルへひっこした水野くん」と説明されているが、ちょうど1970年代はブラジルへの集団移民が終わった時期らしい。

*17:『ドラえもん(2)|藤子・F・不二雄 大全集』 - 法華狼の日記

*18:299頁。原文は漢字にふりがなあり。

*19:309頁。

*20:ムクが二足歩行でジャイアンをひきずるのだけは微妙か。

*21:実は秘密道具をとりかえしたドラえもんが顔にしわを書いただけ。

*22:387頁。