法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『巨神兵東京に現わる』

もともとは昭和時代の特撮を記録し紹介するイベント「特撮博物館」のため作られた、アナログ手法のみで制作された短編作品。
館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技
それに3DCGやエンドロールを足し、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に併映されたバージョンをDVDで視聴した。


棒で動かす人形「ロッドパペット」で巨神兵を動かし、その攻撃にあわせて緻密なミニチュアが破壊される様子を楽しむ作品。
ぬいぐるみ犬や、写真を切り抜いた群衆など、生物とからむ場面は明らかに特撮とわかる。だが単に技術力が足りないためや、過去の人形をもちいた特撮へオマージュをささげるために粗くなったわけではないだろう。もし犬や群衆を登場させなければ充分なリアリティを感じさせたろうし、アナログ手法であっても実写の犬や群衆を合成すればミニチュアとわかりにくくなったはずだ。おそらくは、あえて作り物と観客に理解させて、ミニチュアの精度と実在感をわかりやすくしたい意図があるのではないか。
一方、ミニチュアや合成を使わない実景では、フィルターをかけてミニチュアっぽい映像にし、うまく特撮となじませていた。空撮も特撮と聞いていたが、それらしいオブジェクトが映らないので、先入観があるのに実景に見えたのも面白い感覚だった。
樋口真嗣コンテも、アングルで巨大感を出すにとどまらない。ミニチュアをFIXでフェティッシュに見せたかと思えば、爆発の広がりをPANで追いかけ表現する、変幻自在のカメラワークが素晴らしい。
尺が約10分しかないので、さすがに物語らしい物語はないが、淡々とした厭世的なモノローグと字幕テキストは悪くない。結果的に本編となった『ヱヴァQ』の終末気分を予期させる補助線として楽しめた。


特撮研究所の技術力も印象に残った。日曜朝のスーパー戦隊仮面ライダーでは、勢いと遊びを優先した特撮ばかりだが、映画制作で求められれば緻密で自然な特撮も見せられる。
特撮研究所がTV作品の延長ではない怪獣映画を担当するのは『さくや妖怪伝』以来、現代を舞台にした作品としては『ガメラ3 邪神覚醒』の冒頭モノクロパート以来かもしれない。その延長線でありつつ現代なりにアップデートされたと感じるだけのクオリティはあった。
そもそも日曜朝の特撮ドラマで特撮研究所が担当するのは、パイロットフィルムをかねる序盤や、ロボット合体変形のように何度も使いまわす場面、そしてコンテによる指示が中心。多くの巨大ロボ戦は本編班が担当するし、合成やCGの多くはマリンポストが請け負っている。


ただ残念なところとして、巨神兵はミニチュアを直接さわらない。光線等を発して市街地を破壊するだけ。浮遊するか立ち止まった場面が多く、歩く場面では足元が見えない。
ロッドパペットは、コンテを担当している樋口真嗣監督の実写映画『進撃の巨人』で予定されている手法でもある。しかし基本的に肉体で攻撃する「巨人」のビジュアル参考にはならなさそう。
スバル自動車の実写CMを見ても、完成度が高いのは最後のバストショットしか見えない巨人だけで、着地シーン等の合成は露骨すぎて、改善する必要を感じる。

また、DVDに収録されているメイキングは『ヱヴァQ』だけ。『ヱヴァQ』メイキングも楽しめはしたが、基本的には『ヱヴァ破』メイキングの別作品版という感じで、新鮮味はなかった。アナログ特撮のメイキング映像は楽しいだろうにと思うが、収録されていないのは権利問題のためだろうか。