法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『タイムスクープハンター』に対するツイッターのデマを、1年ごしで保守速報が拡散する

NHK総合で放映している『タイムスクープハンター』は、未来人がレポートと撮影をおこなっているという体裁で、名も無き人々の歴史を映像化したフェイクドキュメンタリー番組だ。
TSH
当時の髪型を俳優の地毛で再現し、江戸時代の既婚女性はお歯黒をし、戦闘シーンでは手ぶれカメラを多用して、低予算を逆手にとったリアリティを作りあげている。描写に過剰性を感じる時もあるが、独特の作風は現在の歴史ドラマで類をみない。


そのような華麗なだけではない歴史を再現した番組に対して、汚い風景は韓国のものだという意味不明な批判があびせられている。
そもそも日本が過去から朝鮮半島からの文化を多く吸収しているのは歴史的な事実だ。しかし批判の内容を見ると、それ以前のデマにすぎない。
はじまりのツイートは2013年5月12日から存在し、まとめブログに転載されている。

同時期にいくつかのツイートがあるが*1、同日に先行して複数の画像をまとめたブログエントリがあった。おそらくデマの発端のひとつだろう。
http://blog.goo.ne.jp/inoribito_001/e/ba75754f4c4bc1681aa03db193e35b18

コメント欄に非公開希望でNHKの「タイムスクープハンター」が、江戸時代や戦国時代を描くときに、髪はボサボサ、ボロ布をまとい、食べ方は汚い、街も汚濁、略奪強盗が日常茶飯事であるかのように・・・・とレポートを頂いたので、画像を拾えるのを見てみたのですが・・・・なるほど、「乞食のように」汚いです、不必要に。

しかし江戸時代と戦国時代は時間でも文化でも大きくへだたっている。江戸時代でも、元禄文化化政文化の傾向は異なっている。
ツイートに使われている画像は、TV放映されているものではなく2013年8月から上映された映画『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』の一場面だ。
注目映画紹介:「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」 体感型の戦国タイムトラベル - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 沢嶋は本能寺の変の直後の京都に派遣され、織田家の侍・矢島権之助(時任さん)と博多の豪商・島井宗叱(上島さん)に出会う。権之助に同行取材するが、未来の武器を持つ謎の山伏に襲われ、島井の持つ茶器“楢柴”を滝つぼに落としてしまう。歴史を変えぬため、新人ジャーナリストの細野ヒカリ(夏帆さん)と楢柴の行方を追い、時空を超える。やがて焼失直前の安土城にたどり着き……というストーリー。

そう、これは江戸時代ではなく戦国時代の、それも日常ではなく戦時下での情景だ。公式サイトを見れば、他に江戸時代の日常を描いたエピソードの予告映像がいくらでも確認できる。
たとえば今期に放映されているシーズン6でも、当時の欧米を超えた職人技術として江戸時代の入れ歯が紹介されたりしていた。
http://www.nhk.or.jp/timescoop-blog/185037.html


その1年前のデマツイート群を、まとめブログ「保守速報」等が転載して、再びツイッターにデマが出回る事態になっている。
http://bakankokunews.blog.fc2.com/blog-entry-2448.html - Twitter Search
http://hosyusokuhou.jp/archives/38194412.html - Twitter Search
はてなブックマークツイッターの全体を見れば、さすがに江戸時代ではないと指摘するコメントがいくつかあったが、残念ながら流れを押しとどめることはできていない。
はてなブックマーク - 【これは酷い】NHKの描く『戦国~江戸時代の日本』が『朝鮮半島』にソックリだと話題に!NHKの韓国人職員が朝鮮半島の汚い歴史を日本に押し付けようとしている件!!! | 保守速報

id:minoton この絵は『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』で、本能寺の変の直後だから、1582年6月21日(天正10年6月2日)あたりの京都だな 2014/05/21


そもそも静止した一場面で映画の情景全体を評することは難しい。
下記の設定解説をかねた映画宣伝映像で、問題にされている宣伝素材と同じ場面が確認できる。

できれば全体を見てフェイクドキュメンタリーとしての面白さを感じてほしいところだが、7分半くらいから始まる場面だけでも見比べると、ツイートのデマが的外れであることが明らかになる。




そう、宣伝素材として使われた画像は、色鮮やかな着物を着ている人物が主人公の影に隠れ、黒い着物を着た人物が遠くて見えにくいだけだったのだ。おそらく主人公が最も目立つような一瞬を素材に選んだのだろう。よく見れば後頭部に別の赤い着物も確認できる。

*1:このツイートのように細部だけ変えた盗作、いわゆる「パクツイ」もある。https://twitter.com/zipang_osaan/status/333559754465087488