法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『暗殺教室』

週刊少年ジャンプ』に連載中の、奇妙な味の学園ドラマ。とりあえず単行本の第4巻まで読了。
圧倒的な知力と戦闘力を持ち、地球を破壊することを期限つきで宣言しながら、希望して学校教師となった超生物「殺せんせー」と、学生でありながら超生物を暗殺する役割を飴と鞭で押しつけられた落ちこぼれクラス「E組」と、状況を監視したり利己的に策謀する周囲の人々の物語。
さほどSF設定が似ているわけでもないが、藤子・F・不二雄のSF短編作品『いけにえ』を思い出した。ショートショートのように極端な寓話的設定から導入し、よくあるドラマをパロディしたかのような物語を誇張して展開する。明らかに異常な風景で、主人公は命がけの立場に置かれるのに、淡々と物語が進む。


全体としては、作品を成立させるバランスどりの上手さが印象に残った。
いわゆる上手い絵ではないが、作品のリアリティと状況描写に必要な漫画絵としては成立している。単行本の作者解説を見ても、生徒はモブとしてあつかうことが多いので派手になりすぎないようデザインしていると説明されている。作者が絵の技術や楽しみにおぼれていない。
人物のキャラクター性は誇張されており、役割を大きく超えた内面は見せないが、おかげでさまざまな思惑のからみあう群像劇でも理解しやすい。周囲が平凡だから、恐ろしい超生物なのに学生のためにつくす立派な教師で、なおかつギャグキャラという「殺せんせー」の特異な性格が際立つ。
また、「殺せんせー」は作中でツッコミが入るくらいの後づけ能力を持ちつつ、ちゃんと伏線をはった展開で、戦闘の帰趨を納得させてくれる。弱点そのものも、特定の素材にふれると溶ける肉体と、喜怒哀楽のはげしい心理面の、だいたい二つに大別されているので、その他に小さな弱点が出てきても理不尽に感じない。
何より、1年間の期限付きの物語と作者が宣言しているところに『少年ジャンプ』連載らしからぬ安心感がある。実際は人気が出ればひきのばされてしまうかもしれないが、とりあえず当面の目標が明確なだけで印象が違うものだ。少しずつ、しかし確実に「殺せんせー」の設定を小出しにしていることも、物語が進んでいるという印象をもたらす。