法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』録験機でたのしもう/アセッカキン

原作に忠実な前半と、スネ夫役の関智一が脚本協力している後半というとりあわせ。


「録験機でたのしもう」は、体験の記憶をカセットに記録して、自分や他人の体験を仮想で楽しむ。のび太はしりあいのおもしろい体験を集めようとするが……
2005年のリニューアル以来で初めてのアニメ化。原作の初出が1979年なので秘密道具の形状がカセットテープレコーダーなわけだが、これはこれでレトロ感が出ていて楽しさがある。
絵も話も、ほぼ忠実に原作を映像化。アレンジといえば、体験へのダイブで画面が奥にひきのばされる仮想現実ジャンルらしさをアピールする演出と、クライマックスにダジャレを入れてジャイアンの怒りを強化し、ジャイアンが殴ってくる主観視点を明示した描写くらい。
しかし原作と同じ描写をきっちり動かすだけでも映像作品として充分に楽しい。体験を追体験する場面は主観視点で、いわゆる「POV」で表現されている。原作の時点でも主観視点を漫画でくりかえす珍しさがあったが、それがアニメで動かすと主観視点そのものの楽しさがプリミティブに感じられる。
全体的に作画に力が入っていたのも、主観視点の楽しさを支えていた。ただ、もっと3DCGを使って背景を立体的に動かしてほしかったところだが、ホームベースで簡単なパースをつけた描写くらいしかない。2005年のリニューアル直後*1のように街全体を3DCGで描写することが通例であれば、もっと主観視点を立体的に描けたかもしれないことだけが惜しい。


「アセッカキン」は、労働で額に汗した分だけ、望む物が対価として出現するという秘密道具が登場。それでのび太はリモコンカーをほしがるが……
関智一発案の秘密道具を使ったアニメオリジナルストーリー。脚本は清水東が担当した。ドラえもんのび太が泣きつく発端から、楽をしようとして失敗、教訓的な結論から元通りなオチまで、すべてが2005年リニューアル以前の定番パターンで進行。
しかしパターンをふまえるのは良いとして、それを逸脱して意外性を演出する場面がひとつもないことは残念だった。それでいて、パターンをあてはめているだけなので、逸脱しそうな局面はふみこまないまま終わってしまう。特に、しずちゃんに贈ろうとして断られたハンカチの行方が物語から忘れられているのが消化不良だ。
たとえば最後にのび太がリモコンカーを善意から幼子に贈ったのを見て、善意だけはありがたく受けとっていたしずちゃんのび太に何かを報いを与える……なんて結末にはできなかったものか。

*1:そのころは3DCG外注先がIKIF+だったが、いつのまにかオクティグラフィカに変わっている。