法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵』

〜充分に精緻な手描き作画は、3DCGと区別がつかない〜
GYAO!で24時間だけ限定配信されていたので、視聴してみた。かつてTVアニメ化された時と同じく、過去編を映像化。
窪岡俊之監督、大河内一楼脚本。制作はSTUDIO4℃


1時間半よりも短い尺ながら、主人公ガッツとグリフィスの出会いから断絶までを、うまくまとめていたと思う。
出会いから仲間意識が生まれつつ、利用されて価値観の断絶に気づく展開までを第一部として映像化した判断が、特に素晴らしい。原作通りならば、この第一部の構造が、そのまま三部作全体の構造と相似形をなすはず。
ガッツの覚えた鬱屈と、グリフィスが飛翔する予感は、第二部以降への引きとなる。それと同時に、黄金時代篇全てに期待する原作読者は、第一部だけでも適度に満足させられただろう。
そのためにこそ、主人公の幼年時代も悪夢での回想描写にとどめたのだろう*1


映像面をいうと、手間のかかる集団戦は3DCGを多用。キャラクターのモデリングは甘く、劇場アニメとしてはクオリティが低めか。
特に冒頭の戦いは、全体的に印象が軽すぎる。鎧にキャラクターの顔が隠れているため違和感が軽減されていると思うが、その鎧が綺麗すぎて質感を損なっていたとも感じる。泥臭い攻城戦なのだから、足元くらいは土で汚れているべきだし、鎧も欠けたり血痕が付着したりするべきだった。
ただ、舞台をふくめて3DCGで構成されただけあって、戦場をカメラが縦横無尽にかけめぐる視点は、物語世界の広大さを感じさせられた。
そして精緻なキャラクター作画は想像以上で、驚かされた。おそらくデッサンの正確さだけでいえば映画『ももへの手紙』等で活躍する沖浦啓之が優るだろうが、正確さと生っぽさが同居する恩田尚之のキャラクターデザインは、3DCGで描画されたキャラクターとよく馴染む。画質の悪いGYAO!で視聴したこともあって、手描きなのか3DCGなのかの判断が一瞬つかないカットが多々あった。
キャスカの髪の長さなど、キャラクター作画の微妙な違いで、作中の時間経過を感じられたところも凄い。よく画面全体が制御されていたと思う。


あと、TVアニメ版でも楽曲を提供した平沢進によるOP主題曲は良かったが、EDでいったん監督がクレジットされて終わったかと思った瞬間に始まる別の主題歌は首をかしげた。
聞き苦しいほどではないが、どことなく違和感があって、EDでのあつかいも制作側の苦肉の策かと思ったくらい。

*1:むろん、性的な描写が規制されることを逃れるためもあるだろう。