法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

充分に精緻な手描き作画は3DCGと見分けがつかない、こともある

よくできたアニメーションが、まれに一瞬3DCGっぽいと感じてしまう気分はわかる。
とはいえ、そもそも3DCGキャラクターの動きはまだまだ不自然で、その記憶とてらしあわせば誰でも気づけるとも思うが。

上記ツイートでid:sakuga_wo_kataru_thread氏に紹介されている『GTO』OP2期は、デジタル初期ということもあってか描線が太くて均一。都留稔幸演出の傾向として、影も抑えている。スローモーションやカメラの回りこみが目立ち、動きの爽快感はアクションそれも回し蹴りに集中している。
つまり3DCGっぽいと思われがちなのは、まず描線にタッチをつけていないこと。影の変化が少ないこと。動きのメリハリを抑えていること。もちろん立体の正確さや動きの自然さは大前提だ。
さらに質感をデジタル撮影で足しやすくなったことで、いかにもセルアニメらしい質感とは変わってしまい、それが3DCGのようだという錯覚を生む局面もあるだろう。


過去に3DCGと混同されていた手描き作画というと、一時期の鈴木典光によるED作画が思い浮かぶ。
特に2004年版の『鋼の錬金術師』ED3期で少女の周囲をカメラが回りこむ場面と、『ハイスクールD×D』EDの滑らかなポールダンスが3DCGと混同されていた。


都留稔幸鈴木典光にかぎらない。ひとりの凄腕アニメーターが全体を統括する時、画面のすみずみまで神経がいきとどいて、手描き特有のブレを感じさせないことがある。
吉成鋼による、『交響詩篇エウレカセブン』第49話でロボットが敵戦艦に突入する場面は、アニメーター自身が付加した撮影効果の質感で、TVアニメ*1では滅多に見られない映像をつくりだしていた。


他に動画*2が精緻をきわめた一時期のProductionIG映画作品で、何度か3DCGと混同された場面を見た。
特に『人狼 JIN-ROH』で路面電車の線路を背景動画で動かす場面と、『イノセンス』で自動車のサスペンションが効いている場面。

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大スクリーンに映すことが前提ということを差し引いても、原画を動画がなぞった線にいっさいブレがなく、作品全体のシャープな印象を支えていた。


細かいところで、サンライズ制作で大人向けドラマを目指した『プラネテス』がある。OPでハチマキをしめる描写と、本編のどこかで主人公が口をあんぐり開ける場面が、3DCGのようだという感想を見かけた。

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これらは人物の頭身が高く、目を小さくしたリアルなデザインという原因もあるだろうが、それぞれ動きが大きいわりに均質でメリハリが弱く、それがコンピュータでモーフィングしたかのような感想を引きだしていたのだろう。


まれに、いかにも手描きらしい荒らした描線の映像に、無機的な均質な絵がはさまることで、いかにも3DCGと錯覚してしまうことがある。
オムニバス映画『MEMORIES』の一編「大砲の街」で発射される最大の大砲は、よく見ると静止画を切り絵のようにスライドしているだけでも、あたかも3DCGで描画したかのように感じてしまった。

これは最新監督作が期待されている片渕須直の仕事であった。
WEBアニメスタイル | β運動の岸辺で[片渕須直]第70回 「大砲の街」拾遺

巨大なドーム状の砲塔が旋回するところなんかも、普通に作画している。ドームの地肌は何枚もBOOKを作って中OLかけまくったら、それらしくジラジラしたテクスチャー感になった。砲身はセルにベタ塗りするしかないのだが、それもイヤなので、これもBOOKを作ってもらって、カラーコピーでたくさんに増やして、切り抜いてセルに貼った。切り紙アニメーションなのである。


つらつらと思いだしたものを適当にならべたが、他にも現実をよく研究した動きに撮影効果のグラデーションを計算した『スチームボーイ』の蒸気作画など、手描きの魅力をもって手描きの概念を拡張する映像はあまたある。
それらの魅力的な映像が、作品全体の完成度を支えていればいうことはない。

*1:ゲームムービー等では、いかにもデジタルらしいグラデーション効果をつけたアニメがいくつかあった。川元利浩によるPSゲーム『攻殻機動隊』など。

*2:ここでは映像という意味ではない。アニメ作品のED等にクレジットされているスタッフの役職名のこと。簡単に説明すると、作画の設計図にあたる原画にもとづいて、彩色できるように線を引いたり、動きの途中の絵を指示にそって追加していく。