法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『SPACE BATTLESHIP ヤマト』

TVで視聴。138分の作品だが、かなり枠を拡大していたので、あまりカットはしていないと思う。
VFXのクオリティだけでなく絵作りも見所が意外と多いし、26話にわたるTVアニメの要所を2時間超におさめつつ、現代的な目線でも見やすくした脚本も感心できる場面が多い。木村拓哉は自身のイメージを崩さないまま演技しているが、脚本がそれらしい役をわりふっているのか演出がいいのか、TVアニメ版とは独立した主人公像として見られる。
しかし、見ている間は楽しめつつ、残念なところも散見された。特に序盤と終盤にダメさが集中しているので、全体の出来のわりに印象が悪くなってしまった。


まず、絵作りでいうと冒頭が最も苦しい。
戦艦が画面に密集して狭苦しく、宇宙戦闘らしい空間の広がりが全くない。『モーレツ宇宙海賊』とまではいかないにしても、超長距離攻撃ならではの発射から着弾までの時間差をたっぷり描くなりして、最近のアニメに負けない演出を見せてほしかった。
最初の見せ場となるべきヤマトの発進関連もかなり厳しい。発進と波動砲の見せ場を同時におさめる必要性はわかるが、どちらも短い尺ですまされてしまった。VFXをフェティッシュに使わないことでクオリティを実質以上に良く見せる山崎貴監督の演出が、メカの魅力を前面に出すべき作品とは合わなかったのか。もっとヤマト表面のディテールをなめるようなカットが欲しかったし、敵のミサイルが地表に降下してくる映像を波動砲発射の直前に入れて緊張感を高めてほしかった。
物語の流れで見ても、波動砲の比較対象が冒頭の宇宙戦闘しかない。まず主砲で小型ミサイルを排除し、それでも落下してくる大型ミサイルを波動砲で破壊するとか、メカの活躍は段取りが魅力になるもの。
TVアニメでじっくり描かれたワープも、比較的あっさりとすまされた。別に裸体を見せる必要は感じないが、何らかの新しい描写は見せてほしかったところ。


中盤になると、戦闘機の数が少ないこともあって、空間の広がりは充分に描けている。板野サーカスっぽいカットも、本家ほどのメリハリあるスピード感はないにしても、実写として充分にこなしていた。主人公が救助する経緯も、メカニックのフェティッシュな描写もたっぷりあって、魅力的に描かれている。
お約束的に第三艦橋を失う展開も、ちゃんと主人公目線で感情移入できるよう前振りされているし、それまで描いていた主人公や周囲の心情をほりさげる展開にそつなく繋がった。ここで宇宙空間戦闘を立体的に描いているから、SF描写としても納得できる。
イスカンダルの正体をめぐって2つの驚きを用意していたところも、ドラマの緊張感を高めつつ、TVアニメの疑問点をつぶしていて悪くない。ガミラス本星に突入する作戦も、この映画独自の設定をいかして頭脳的に見せているし、映像的にも面白い。
アナライザーは、たとえば主人公の通信場面でTVアニメ版に似た部分を先に何度も描いておけば、より驚きが増しただろうし愛着も持てただろうが、悪くないと思う。星に突入する場面で仲間達が倒れていく展開も、前進するべき目的が明確化されているため、犠牲に酔っている雰囲気は少なかった。


ただし、本星突入前の訓辞で、戦艦大和の歴史を肯定的な話として持ち出したことには問題あり。仮にも戦端を開いた側であり、それも片道しか燃料をつんでいなかった実質的な特攻であり、しかも惨敗して何の効果もあげられなかった歴史を、肯定的に重ねあわせる無頓着さが気になる。
前後するが、前半の発進前に世界に向けての演説で日本しか残っていないかのような語り口調も、海外に売る気がないのかとあきれた*1。悪い意味で映画『インデペンデンス・デイ』を思い出す、視野の狭さだ。


そうして終盤、ヤマトが地球に帰ってきて、そのまま物語を閉じておけばいいものを、デスラーが人型になって長広舌した瞬間から絵作りも語りも安っぽさを増していく。
精神体が人体を乗っ取って会話する演出にしても、もはや古臭い描写ではあるが、実体ある宇宙人に延々と会話させるよりは良いと考えての判断だろう。ならば貫いてほしかった。全にして個と自称するデスラーが、人間を道連れにしようとする思考の短絡さも、独自のSF設定が言動にいかされていない。
対抗策も、主人公が考えろと自分を叱咤した時は少し期待したのだが、CMをまたいで出した結論が一人で特攻という考えのなさに落胆した。作中で森雪がいっているように、せめて直前での脱出を前提にして特攻するべきだった。
何なら、中盤で第三艦橋を切り離した展開を受けて、森雪が艦橋と船体の間を破壊して主人公を今度は脱出させられる、くらいの無茶な作戦を描いても楽しめたろう。最後に唐突に『さらば宇宙戦艦ヤマト』を混ぜられても困惑するだけだ。


蛇足のせいで印象が悪くなったところは、同じ時期にアニメでヤマトを映画化した『宇宙戦艦ヤマト復活編』に近い。しかも、見ていて面白味の少なかった『復活編』に比べると、蛇足による残念さが際立って感じられた。
いかにも木村拓哉らしい主人公像を最後の最後でいきなり崩しているため、蛇足による違和感も大きい。『復活編』の蛇足は、『宇宙戦艦ヤマト』らしい方向へ転換したので、シリーズ作品らしさを生んでいると好意的に評することもできなくはなかった。

*1:このあたり、TVアニメ新作の報を受けて描いたという二次創作がずっと納得できる。むろん、作品制作リソースで考えて、同じ展開をすることは困難だろうが、この領域は目指してほしかった。http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=24563842