法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『夏目友人帳 肆』第四話 代答

声真似をする妖が、家族のふりをして主人公の家へ侵入する。そこから緊迫感ある展開が始まるかと思えば、妖「ヨビコ」は願いをかなえてほしいだけという。その願いとは、妖が気にかけていた女性の残した文を、古すぎて崩れそうな状態から、読めるように戻すため別の妖「カリカミ」にたのんでほしいという内容だった。
女性が思慕をいだいていた男性は家を再興するため別の女性と結婚、何も告げずに去っていった。そこでヨビコは声真似で偽りの相手をつとめる。つまりは『シラノ・ド・ベルジュラック』展開である。これがサブタイトルの意味する内容だ。そして嘘をつきとおせなくなったヨビコも女性の前から逃げ出した。残された和紙が朽ちるほどに過ぎた時間が、女性とヨビコの断絶を象徴する。


途中で小規模な戦いなどもありつつ、ヨビコはカリカミに文を読めるようにしてもらう。そこで主人公は、祖母とカリカミの間にも、紙が朽ちる時間に対する感覚の違いから、断絶と並行した心の繋がりがあったことを知る。ここで友人帳という作品の根幹設定と、今回の物語が美しい相似形をなした。
もちろん、残された文がヨビコに対するうらみつらみなどであるはずはない。修復された和紙と同様に、ヨビコと女性の関係も繋がりも回復された。
そして結末において、人間の文字が読めないヨビコのかわりに主人公が代読する。ここで再びサブタイトルの「代答」が行われたわけだ。その主人公が代読する姿に音声を入れなかったり、雪降る山道の情景からEDに移行する流れもふくめて、なかなか洒落ていた。


原作に存在するエピソードらしいが、いつもよりさらに端正な物語だった。
しかも物語が良いだけではない。もともとこの作品は映像が安定して良いのだが、今回のキャラクター作画の衣服フォルムや、途中の戦いなどで見られるエフェクトが素晴らしかった。しかし徹底的にざっくりした描線で作画する岸田隆宏とも、どろんと粘る流体のような作画をする山田起生とも異なる描写で、他に『夏目友人帳』関係でそれらしいアニメーターが思いつかなかった。
いったい誰の仕事だろうかとEDクレジットを見ると、羽山賢二作画監督ではないか。今回の仕事はもっと話題になっても良い出来ばえなのに、あまり作画愛好界隈からの注目が集まっていないようで残念。