法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

白燐弾について見かけたちょっとしたやりとり

D_Amon氏と[twitter:@neko73]氏が下記のようなツイートをかわしていた。

白リン弾が肉に食い込んで燃え続ける」というのはD_Amon氏による下記エントリ、および紹介されているノンフィクション『Citizen Soldiers』とアムネスティ記事あたりを指しているのだろうか。
WHITE PHOSPHORUS(WEAPON)=白燐弾(直訳)=黄燐焼夷弾(意訳) - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

まさか、そんな勘違いをする人はいないだろうとは思いますが、「as it burrowed into a man's flesh(それが体内に潜り込んでいくにつれて)」というのは燃えている白燐の破片が、焼夷効果により人体組織が破壊された分、人体内に入り込むということで、白燐の破片が生き物のように動くわけではありません。*2
白燐は火が消えにくく、人体にくっついて取れにくいので、燃えている白燐の破片を浴びて適切な治療を受けられないと、穴のように組織が失われた深い火傷を負うことになるわけです。

肉に食い込んだ白リンの小片は燃え続け、火傷が拡大深化するにつれ激痛を引き起こす。

*2:世の中には無理な曲解をした上でそれを否定するというような論法を使う人もいるので念のために。

一方でneko73氏について検索していると、上記D_Amon氏エントリの1年前にneko73氏も白燐弾エントリを書いているのを見つけた。D_Amon氏の別エントリもとりあげられている。
周回遅れで白燐弾とかパレスチナとか - neko73のつめとぎ

白燐は危険だという人もいます。
白燐弾はどういう兵器でどのように使われてきたか - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

燃焼熱によって溶けた黄燐はその流動性と浸透性により防御困難です。
上空から降りそそぐ榴弾の破片をある程度は防げるヘルメットと防弾着も液化して浸透する燃える白燐を防ぐことはできなかったりするわけで、白燐弾はその防御困難性において有効な兵器です。
弾薬や燃料が榴弾の破片程度は防げるように防護されていたとしても、隙間から流れ込み浸透する燃焼熱で液化した黄燐は防ぎにくいものです。
よって、白燐弾をこういう風に焼夷兵器として敵に用いることにより弾薬や燃料の誘爆を狙えるわけです。
アメリカ軍がこういう風に使った白燐弾は「煙幕弾」と名づけられてはいますが、現場でこういう風に焼夷兵器として敵に対して使われるのは当たり前のことでした。
白燐弾は高高度で爆発するように撃てば落下するまでの間に殆どの燐片が燃え尽き概ね煙幕弾としてしか機能しませんが、低高度で爆発するように撃てば防御困難な燃える燐片を地上にばら撒く焼夷弾となるわけです。

白燐が溶けて流れて火達磨にってどんな「煙幕弾」だよ。白燐手榴弾とか焼夷弾の説明みたいな文章で煙幕弾を説明してる。

引用された範囲を見ても、「煙幕弾」と称している白燐弾が現場で焼夷兵器として使われている、とD_Amon氏は主張している。D_Amon氏に対して「煙幕弾」という名前だから焼夷弾にならない、と反論しても成り立たない。たとえるなら、シュールストレミングは食品だからスコップは土木作業用の道具だから凶器にならない、的な反論になってしまっている。使えるものなら何でも転用するのが戦場のリアリティだ、と薄い軍オタとしては思うのだけれど。
実際、先に紹介したD_Amon氏のエントリには、煙幕弾としての白燐弾焼夷弾として使われていたという資料『The Chemical Warfere Service』が引かれている。

これらの砲弾はマーカーや煙幕として有効な大量の濃い白い煙を上げた。空中を飛んでくる燃えている燐の塊は敵兵を怖がらせた。燐は乾いた下ばえ、干し草、紙、その他の可燃物に火をつけることができ、焼夷兵器としても使われた。

ただし一応、転用可能ということと、実際に転用されたということの間には幅がある。反論するならその道しかなかったのではないかと思う。
あと、neko73氏のエントリには「白リン弾が肉に食い込んで燃え続ける」に対応するような具体的な反論も見当たらなかった。