法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

白燐弾は何発でも誤射かもしれない、何人を殺しても次は煙幕使用かもしれない*1

白燐弾の使用が言い逃れのためかという論点で、D_Amon氏とsaloth_sar氏のやりとりが、はてなブックマークで続いていた。その一端を紹介しよう。
はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - 白燐弾報道において被害者も報道も人権団体も嘘つきではない - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

D_Amon
id:saloth_sarさん、「敵がいなくても自軍の行動を隠すのに必要な場所に煙幕を展開」と同じ場所に同じ理由で榴弾を打ち込めないのは明らかだと思うんですけどね。「榴弾でも同じ」ということにはならないのは明らか。 2011/11/18

saloth_sar
id:D_Amon ならば「敵が居なくても地雷などの障害物を排除するために榴弾で砲撃する」もアリでしょう。それより自分はコラテラル・ダメージを主張しざるを得ないことについての話をしてるんですが。 2011/11/18

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D_Amon
saloth_sarさん、「「敵が居なくても地雷などの障害物を排除するために榴弾で砲撃する」もアリ」民間人居住区をですか?それで榴弾で攻撃して付随的被害で通ると考えるのですか?それはどこの世界の話ですか? 2011/11/18

saloth_sar
D_Amon これは貴方の理屈に沿った理屈であって「それはどこの世界の話ですか?」はそっくりそのままお返ししたいです。そして付随的被害を主張せねばならないならばそもそも通ってないんですよ、貴方の説によると。 2011/11/18

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D_Amon
saloth_sarさん、付随的被害は万能の言い訳ではないですよ。民間人居住区をそういう理由で榴弾で攻撃して付随的被害で通ると考えるのは間違いですし、煙幕弾は被害が出るような使い方はしてないと言い逃れる話。 2011/11/18

saloth_sar
D_Amon わかりました。貴方は散々自分が質問している、白燐弾を使えば民間人の犠牲者を(コラテラル・ダメージだと説明せずに)国際法的に正当化できることの理路について説明していただけない訳ですね? 2011/11/18

D_Amon氏は、煙幕という口実で白燐弾が使用されて民間人の犠牲がないかのような主張があったことを指して、言い逃れされていたと指摘している。
saloth_sar氏は民間人に犠牲があるという情報を前提として、どのような兵器を使おうが犠牲が出ていることへの言い逃れはできないと主張している。後で引用する主張と同じように、差異を無視して相対化することで兵器への規制を拒否したいのだろう。犠牲者が出ない煙幕だという言い逃れが存在していたことを頭から認めていない。
条文の理想を厳密に適用したり情報を明らかにすれば規制されることでも、使用目的を偽りやすい兵器を用いて言い逃れしようとすることは考えられる。「言い逃れ」と一口にいっても様々な段階があるのだ。
兵器規制が条文に明記されたことや謳われた理想だけでなく、国際社会の力関係によって解釈や実行が左右されることを認められるなら、境界線上のホワイトフォスフォロス*2を言い逃れのため使用しているという説も認められるはずだろう。
そして会話が通じなかった結果として、D_Amon氏はエントリの一部分を下記のように取消線で修正した。
白燐弾報道において被害者も報道も人権団体も嘘つきではない(追記あり) - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

民間人に対する攻撃は国際法違反ですが白燐弾であれば「煙幕として適切に使用した」と言い逃れができますし、その言い逃れに自ら進んで加担してくれる人々も、少なくとも日本のネット社会には大勢います。

この記事は「白燐弾では被害が発生しえない」と被害者や報道や人権団体の方を嘘つき呼ばわりしていた人向けの説明を意図した記事であることから追記したような部分は文脈から明らかだろうと考えていた私に落ち度があったことは認めねばならないと思います。

そもそもD_Amon氏が最近に改めて白燐弾の被害を指摘しているのは、下記エントリでまとめたように「あれ煙出るだけだから」「肉に食い込んで燃え続けるだとか嘘」という主張が今月にもあったからに他ならない。
白燐弾について見かけたちょっとしたやりとり - 法華狼の日記
上記エントリで主張していた者は見解を取り下げたらしいので、ことさら今回に論じるつもりはない。
しかし依頼せずとも白燐弾弁護に名乗り出てくれる党派が存在するならば、白燐弾を使用することでの広報的な意味は少なからずあると、一つ明瞭になった。そして皮肉なことに、白燐弾は煙幕にしか使えないという主張を批判した者に対し、そういう弁護する者などいないという理由で非難できることも明瞭になった。


ここでsaloth_sar氏の論法を紹介しておく。下記エントリで引用されている主張を見ると、差異を無視して相対化することで兵器への規制を拒否する主張がすでに存在している。
白燐弾擁護派の軍オタは想像以上にレベルが低いようだ。 - 誰かの妄想・はてなブログ版

ちなみにこれは参考程度の話だが、国内法の化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律では施行例で有毒物質はきちんと定義されている。無論のその中に五酸化二リンは存在しない。
この筋で言うならば、ガソリンなどを燃やした煙にも毒性はあるから、それらは化学兵器だ、ということになる。
そしてWWIでは古典的な攻城戦の延長として、兵士を煙で燻すという戦術も採られたが、それによって煙を出す物質を「化学兵器として」規制しようとする動きは聞いた事がない。そして現在もガソリンで煙幕を張る装置は存在している。

引用された上記コメントのように、saloth_sar氏の主張は、使用形態等で変化する毒性の悪質さを無視して他も同じに見なす論法だ。それを延長して、より毒性を少なくしていくといった選択肢を切り捨てることで成り立っている。
毒性に限らず、武器への転用可能性を重視して白燐弾を規制しようという動きに対して、「余計な費用」*3という理由で現状維持を主張したことにも通じているだろう。
しかし、何度か指摘しているように、自衛隊でも一部の煙幕を赤燐弾へ切りかえている。自衛隊の現状もまた、様々な規制や代替や変化を行った後なのだ。つまるところsaloth_sar氏の主張は自衛隊の進歩してきた過去をも否定している。たとえるなら、人権を尊重していこうとする動きへ反発する者が、実際は人権を尊重するようになった社会の恩恵にあずかっていることとも似ている。
さて、上記のようなsaloth_sar氏の主張は、確かに「白燐弾」と「榴弾」と同じく、個々の兵器が持つ差異を認めないというところは一貫している。しかし「白燐弾だろうが榴弾だろうが言い訳が成立しない」という主張と読むべきだろうか。むしろ差異を認めないことで兵器全般の規制へ反発する傾向が感じられる。


同じエントリで引用されている別部分の主張も見てみよう。

だから「設計目的」とかそういう話が出てくるんだろうが。塩素ガスを撒いておいて、煙幕だと主張する「よほどのバカ」は、こういうよほどのバカの脳内以外には存在しない。逆に言えば、このよほどのバカの論法で言うと、煙幕に使用される煙(というか地球上に存在する全ての煙)には人体にとって完全に無害であるものは存在しないため、煙幕自体が不可能となる。

白燐弾を攻撃目的で使用しながら煙幕弾だという主張や擁護が存在することを、確かにsaloth_sar氏は意識していなかったのかもしれない*4。存在すると意識し、誠実であろうとしているならば、上記のような主張はできなかったはずだ。
しかし現実には、燃える白燐をばら撒き攻撃する白燐弾に対して、煙幕だと弁護する人々は存在していたし、殺傷能力を持つ可能性は認めつつ通常の榴弾より威力が弱いと主張する人々もいた。むろん威力が弱いとしても死者には慰めにもならないだろうし、先日のエントリで書いたように犠牲が増えることにも繋がりかねない。
白燐弾規制というリアリズム - 法華狼の日記

むろん、良心を痛めず攻撃ができるようになれば、兵器そのものの殺傷能力は抑制されていても、より激しく戦禍を広げかねない。

それでも弁護しようとする人々はいたのだ。そして今後も長く存在していくだろう。


何よりも、saloth_sar氏の主張は、「設計目的」といった論点を提示することで、強い毒性を持つ焼夷弾に転用できても煙幕弾であれば規制から言い逃れやすくなるという論法を用いていると読める。
saloth_sar氏は実際に下記コメント欄等で、煙幕弾として使用しており代替には費用がかかるからという理由で白燐弾規制へ反対している。
saloth_sar氏(61氏)のコメントに対する反論 - 誰かの妄想・はてなブログ版

まず第一に、これで白リン弾保有などに規制がかけられた場合、代替兵器の開発・調達や現有リン弾の処分が必要になること。そしてこれは自衛隊も例外ではないこと。
これらにかかる費用は財政を揺るがすほどに巨額になるとは思えないが、それでも「余計な費用」が掛かることには変わりがない。財政難に苦しんでいる自衛隊ならば尚更の話。そしてそのコストに見合うだけの利益が得られるとは自分は思わない。

なるほど先のはてなブックマークコメントであるように、使用の「目的」と「犠牲」が確認された段階においては「白燐弾だろうが榴弾だろうが言い訳が成立しない」とはいえるだろう。
だが、白燐弾であれば煙幕弾にも使用されているという理由で代替品へ移行する圧力を逃れやすくなるわけだ。白燐弾は「目的」や「犠牲」を隠しやすいという特性がある。「言い訳が成立しない」という同じ口が、同種の言い訳へ加担し続けている。


現実の国際社会でも、白燐弾が過去の規制を逃れられた一因に、他の利用法があるからという理由が存在していた。
higeta氏のエントリから孫引きしよう。
特定通常兵器使用禁止制限条約の成立 - 日本近現代史と戦争を研究する

以下は、櫻川明巧「特定通常兵器の法的規制」『立法と調査』109、1982.4による。

焼夷兵器は、たとえば火炎放射器、火焔瓶、砲弾、ロケット弾などの形態をとることができるが、他方、照明弾、曳光弾、発煙弾、信号弾など焼夷効果が付随的である弾薬類、あるいは装甲車、航空機など対物破壊を目的とし、貫通、爆風、破片による効果と付加的な焼夷効果とが複合するように設計された弾薬類は、いずれも焼夷効果を第一義的目的にしていないとの理由から除外されている。実はこの点は、国連会議で最後まで審議が難航した点であった。当初、米ソ両国は、焼夷兵器の範囲をナパーム弾に限定しようとしたが、その他の多くの国はすべての焼夷兵器の使用を禁止するよう主張したのである。結局、米ソが譲歩する形で、火炎による殺傷を第一義的目的としない照明弾など、あるいは主な目的は爆発であってその際に火炎を伴うもの、たとえば空対地ミサイルを軍事目標に限って使用すること、を除くすべての焼夷兵器の使用を制限することで妥協が図られた。もっとも、かかる除外規定が恣意的に運用されるのを防ぐため国連会議では、同規定は誠実に解釈されるべきであって、議定書の意図を変更し、歪めて適用してはならない旨の共通理解を成立させている。
(20頁)

引用の末尾で紹介されている「かかる除外規定が恣意的に運用されるのを防ぐため国連会議では、同規定は誠実に解釈されるべきであって、議定書の意図を変更し、歪めて適用してはならない」という「共通理解」が重い。
解釈の余地がない法律はない。全ての状況を説明するような明文化ができるわけがない。だが、それは抜け道を作ったり探したりするためではないのだ。

*1:IDコールが重複するため、引用時に「id:」を削った。以下も同様。

*2:書いた後で思ったが、あまり上手くない……いや別に前回エントリタイトルも上手くはないが。

*3:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20090121/1232553806のコメント欄に書き込まれたもの。

*4:たとえば焼夷兵器にふくまれるという見解すら否定する意見が存在していた。id:JSF氏のエントリから、「そして白燐弾は焼夷兵器でもありません」以下の段落を参照のこと。http://obiekt.seesaa.net/article/9465205.html