『スター・ウォーズ』の続三部作を代表するキャラクター、カイロ・レン。
劇中で屈指の血統や能力と、優柔不断で矮小な性格のアンバランスぶりが印象的だった。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 - 法華狼の日記
祖父にあこがれるだけの小人物なのも興味深かった。主人公側ともども戦いのスケールを適度に縮めて、136分という時間でも物語をきっちり終わらせられたし、ストームトルーパーにあきれられるほど言動が幼すぎるという一種の魅力があった。
カイロ・レンという、活躍しても苦悩しても一挙手一投足が共感できつつ笑える最高のキャラクターがいるのだから、周囲や対立者まで間抜けに見せる必要はなかった。
演じるアダム・ドライバーも絶妙に気弱な芝居と筋肉質な体づくりで、キャラクターに説得力を与えていた。
そんな俳優が、現実では海兵隊員だったことを下記のインタビュー記事で知った。
courrier.jp
テロに対する反撃として何かしたかったが、具体的な敵を想定できなかったという心理は、悪い意味でカイロ・レンを思わせる。
アメリカ同時多発テロ事件が起きたあと、ドライバーは報復したくてたまらなくなった。だが、何に対してなのかはよくわかっていなかった。
「イスラム教徒に対してじゃない」と彼は言う。
「この国が攻撃された。相手が誰だろうと、自分の国のために戦いたかったんだ」
そこからの具体的な体験談として興味深かったのが、白燐弾に言及したくだりだ。
白燐(はくりん)が皮膚に触れると、骨まで火傷を負うことになる。そしてこの粒子が燃えるとニンニク臭を発し、行く手にあるものをすべて溶かす。
そのことを、海兵隊第一大隊第一連隊兵器中隊第81小隊所属の兵長アダム・ドライバーは知っていた。2003年のある日、カリフォルニアでの訓練中に空を見上げたときのことだ。頭上高く炸裂した白燐弾の雲が目に入った。彼がするべきことは、ただひたすら走って逃げることだった。
ドライバーが経験したのは、標的を示すマーカーとして利用されるはずの白燐弾が、頭上で爆発したため有毒な焼夷弾として機能しかけた事故だった。
戦闘のシミュレーションでは、迫撃砲兵は軍用車を谷まで乗りつけ、迫撃弾を撃つことになっていた。標的は遠くにいたため、白燐弾の爆発で指示される予定だった。だが手違いで、白燐弾は標的の上ではなく訓練兵の上空で炸裂した。ドライバーは、ブーンという音を頭上に感じ取った。幸いなことに風が吹いていたので、猛毒の煙が漂ったのはわずかで、海兵隊員は全速力で走って逃げ切った。
この事故をきっかけとしてドライバーは俳優になることを選んだという。
兵舎に戻って人心地がついたドライバーは、人生において本当にやりたいことは2つしかないと悟った。ひとつはタバコを吸うこと。もうひとつは俳優になることだった。
非人道的な焼夷兵器でありつつ、使用方法によっては煙幕などにも利用できる白燐弾。
しかし一時期の日本語圏のインターネットでは、その殺傷力や非人道的な効果を否認する動きがあった。
否認主義を批判していたid:D_Amon氏による約十年前のエントリと、それに対する反応を見れば、当時の雰囲気がつたわってくる。
amon.hatenablog.com
amon.hatenablog.com
当時に否認主義者をつきうごかした情熱はなんだったのか。ドライバーのインタビュー記事と読み比べて、あらためて疑問に思った。