法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

出崎統、死去

享年67歳。肺癌だったという。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/110418/ent11041811020008-n1.htm

 「あしたのジョー」「エースをねらえ!」などを手掛けたアニメーション監督、出崎統(でざき・おさむ)さんが17日午前0時35分、肺がんのため死去した。67歳。通夜は20日午後6時、葬儀・告別式は21日午前9時半、東京都府中市多磨町2の1の1、多磨葬祭場思親殿で。喪主は兄、哲(さとし)氏。

 昭和18年、東京都出身。高校在学中に貸本漫画家としてデビュー。38年、旧虫プロに入社。テレビアニメ創生期から活躍し、45年、「あしたのジョー」で初監督。止め絵などを多用した独特の演出技法が高い評価を受け、その後も「エースをねらえ!」「ガンバの冒険」「宝島」「ベルサイユのばら」などを次々と手掛けた。

まだ働ける年齢だが、不思議と衝撃は薄かった。昨年に『COBRA THE ANIMATION』の監督を降板したという情報を知ってから、無意識に覚悟していたのかもしれない。あるいは、過程が全てであって結末は結果にすぎないという作風から受ける印象のためかもしれない。


上記記事にかかれている範囲は主に1970年代までの仕事だが、1980年代から1990年代にはOVAやTVSP作品でマニア向けに手堅い仕事を行っていた。特に作品を構成するにあたって原作からスタッフワークまで完璧だったOVAブラック・ジャック』は深く印象に残っている*1
2000年代に入ってからも精力的に活躍していた。2005年にNHK総合で全国放映された『雪の女王 The Snow Queen*2や、2009年にフジテレビのノイタミナ枠で『源氏物語千年紀 Genji』を監督。しかもそれぞれの作品で全話コンテ*3を担当していた。
2005年と2007年には美少女ゲーム原作の劇場アニメ『劇場版AIR*4と『劇場版CLANNAD -クラナド-』*5も監督。いささか原作ファンからは不評も多い作品だったが、歳を重ねて挑戦を忘れない姿勢を示し、一定の成果を出した。
独特の演出技法は、過剰すぎて作品を作り物めいて見せることもあった。過去もパロディの対象になっていたし、近年は率直に低評価へ結びつけられた。あまりに偉大で精力的に活動していたため、他から受けた影響にすぎない技法を発明したかのように受け取られることも多かった。たとえば入射光は映画『イージー・ライダー』の影響だろうし、画面分割はカーレース映画『グラン・プリ』からの影響が色濃い。とはいえ、日本のサブカルチャーに残した足跡は、きっと影響を受けた者が意識しているよりも大きい。


いずれにしても、作家は作品を通して生き続ける。TVやDVDやインターネットを通して数多い作品群の一端にふれることができる。とりあえず無料配信されているものを紹介しよう。
遺作となった『源氏物語千年紀 Genji』は、フジテレビOnDemandにおいて初回を無料配信中。いきなり冒頭から光源氏のプレイボーイぶりを前面に出し、老いてなお前のめりな生き様を象徴している。
源氏物語千年紀 Genji | フジテレビ公式<FOD>【1ヶ月無料】
初期の演出参加作品では、バンダイチャンネルで『どろろ』の初回が無料配信中。モノクロアニメで他監督作品ということもあってか、出崎作品らしさは少ない。この作品そのものより、原作マンガの文庫版で手がけた解説が、あまりにも出崎作品らしい内容で印象的であった。バンダイチャンネルでは他にOVAと劇場版の『ブラック・ジャック』が有料配信されている。
どろろ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
そして初監督作品の『あしたのジョー』も、ちょうど無料配信サイトGYAOで全話配信を開始していた。1週間に5話更新という早さで、火曜日23時59分までに見なければならないが、まだ間に合う。配信中の序盤は原作に近い絵柄で特徴的な出崎演出は少ないが、それが逆に出崎作品の変わらない根幹が何かを感じさせる。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00867/v00111/
初回のドブ下から横木をナメて矢吹丈を見上げるカット等では、表現主義的に解釈されやすい出崎作品が薄っぺらな絵空事ではなく、物語中の現実を映しとっていることを感じさせる。

時代性を考慮に入れれば、出崎監督が実写映画の技法をとりいれたことは安易な真似ではない。異なる表現媒体から技法を引いた先駆の一人という文脈でも読み解けるのだ。

*1:一挙に発売された序盤では、革命家の逃避行を助ける第3巻が特に良かった。公害に侵された地域において、支援の手が届かない少女を描いた最終巻も忘れがたい。それぞれの感想はこちら。『ブラック・ジャック』マリア達の勲章と、成長しない世界と - 法華狼の日記『ブラック・ジャック』マンガとアニメ、ふたりの「しずむ女」 - 法華狼の日記

*2:残念ながら同時期にTVアニメ『ブラック・ジャック』で仕事をしていた杉野昭夫はキャラクターデザインとEDのみを手がけて本編に参加せず、作画の弱い作品ではあった。童話らしいファンタジックなパートが、泥臭い旅のリアリティある描写におよんでいないきらいもあった。しかしアニメオリジナルキャラクターの吟遊詩人ラギをめぐるドラマは素晴らしく、一見の価値がある回も少なくない。

*3:ただし39話にわたった『雪の女王 The Snow Queen』では2回ほど連名で手がけていた。

*4:こちらで絵コンテを一部分紹介。アニメ演出の光と影〜押井と出崎のレイアウト〜 - 法華狼の日記

*5:インターネット上の有志で実況する企画が2009年にあった。触発されて簡単に感想を書いたエントリはこちら。劇場版クラナドを見よう企画に関連して、劇場版AIRとの比較を少し - 法華狼の日記