法華狼の日記

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『STAR DRIVER 輝きのタクト』最終話 僕たちのアプリボワゼ

終わりよければ全て良し。土曜午後6時枠から数えても、最終回の完成度は最上位に入る。最終回の印象だけで後味を良くしてみせた『BLOOD+』も凄かったが、それとは方向性が全く異なる。意外性がありつつ、きちんと一貫した物語としての意味を感じさせる結末だ。


美しい自己犠牲も、別離による喪失感も、後日談で見せる心地良い世界も必要ない。ただ無数に可能性を開いてみせることの肯定、その力強さを高らかに謳いあげる開放感だけで充分だった。
外へ出ることや若さといった可能性を開く物語の定石すら、この作品は必要条件にしなかった。中盤でのミズノ姉妹エピソードで示されたように、島を出て行くだけでは肯定されないし、逆に島へ帰る選択肢も肯定されうる。最終回でも、タクトはワコのシルシを切り裂き、スガタのサイバディを砕き、2人が島から出ることも残ることも可能にしてみせた。そして最終回にいたっても、若さを保ちつつ綺羅星を馬鹿にしたヘッドが否定された一方、他の大人は必ずしも否定されていない。青春はどこにいても、何歳になっても謳歌できる。


謎を無数に積み残していたようで、終わってから考えると実は必要な伏線はほとんど消化できている。いや、思えば最初からこの物語に謎のための謎はなかったのだ。第二十二話で感じたことが当たっていたのだと思う。
『STAR DRIVER 輝きのタクト』第二十二話 神話前夜 - 法華狼の日記

輝きのタクト』の2期OPでは、出来事の多くは直接的に描かれている。しかし、描かれた当初は意味づけがわからず、視聴者にとって謎となる。

強い印象を与えた「銀河美少年」はただの呼称であり、謎ではなかった。「エントロピープル」である部長と副部長の立場も、「傍観者」にすぎないことが設定開示と同時に台詞で語られていた。同時にサイバディの位置づけも簡単ながら説明されていた。序盤で島を去った「サカナちゃん」も描かれていたとおり、ただ島の巫女であり、せいぜい不思議ちゃん少女であっただけなのだろう。放送時こそ意外な展開であったミズノ姉妹の真相すら、一周回って妹を守るために嘘をつく姉という構図は何一つ変わらなかった。
一周回って最初の人物関係を強調して肯定する結末は、同じBONES制作で五十嵐卓哉監督と榎戸洋司シリーズ構成というスタッフまで共通するTVアニメ『桜蘭高校ホスト部』に通じている。それをロボットアニメとして再構成し、さらに許される可能性の選択肢を広げた作品が『STAR DRIVER 輝きのタクト』なのだろう。


しかし最終話でも、依然として未消化の伏線を残していたように感じさせたことも確かではあった。そのため、最終話の終盤で自己犠牲を選んだスガタにより全ての決着がつき、残りの時間で伏線消化をするのかもしれないと思わされた。だからこそ、現代の主人公ならば当然の選択をとったタクトの行動に意外性があり、興奮することができた。
そして展開された村木靖コンテによる板野サーカス*1は、ここ十年で最も爽快感あるものだった。近年の板野サーカスでも素晴らしいものは無数にあるが、映画『マクロスプラス MOVIE EDITION』の命を削りとる音が映像で見えた対ゴースト戦や、映画『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』の広い空がミサイルで狭くなる出口の見えない最終決戦等々、演出の要請によって爽快感と逆方向へ向かうことが多かった。そもそも板野サーカスは戦闘の緊迫感を生むことが特長のアニメーション技法でもあり、真摯に描写すれば戦闘の痛みとも向き合わずにいられなかったのかもしれない。むろん主人公を応援したくなるような板野サーカスは近年でも複数あったが、主人公が能動的に動く物語の高揚感に映像の快楽で相乗効果を上げた今作は頭一つ抜けている。


シリーズ全体の感想をいうと、意外性のための障害を作ったり大きな変化をつけなかったことで、残念ながら各話が平板気味だった印象は残る。素晴らしい作画に比べれば、凡庸とまではいわないものの演出に特異性がなくて、それも平板な印象に拍車をかけた。
初回のかませ犬敵だったボクサーがサンドバッグをへて最終話でもかませ犬に終わったように、多くの登場人物は最初に示した立ち位置から大きく変化することはなかった。敵組織の綺羅星十字団も否定されなかった。ただ、サイバディに象徴される誤った可能性一つを捨て去り、もといた立ち位置のままで信念と良心を見せただけ。可能性を否定しないという主題のためか、物語上の虚構としてでも明確な障害をほとんど作らず、わかりやすい成長や変化が描かれなかった。
最終話まで通した一繋がりの物語としてみると、失ったものや得たものが充分に描かれている。しかし可能性を開くという主題を考慮しても、各話のバラエティはもう少し欲しかった。キャラクターを整理するだけでなく、青春の謳歌の肯定という意味で、遠足や体育祭のようなイベントがもっと多く描写されても良かったかもしれない。

*1:アニメーター板野一郎によって生み出された、デフォルメされた空中機動で広い空間を表現するアニメート手法。空間の座標を表現するため、ミサイル等の航跡を利用することが特に多い。