法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『らんま1/2 中国寝崑崙大決戦! 掟やぶりの激闘篇!!』

 空を飛ぶ船にのった七福道人が天童道場にあらわれ、嫁として天童あかねをさらっていく。自分こそが七福道人の花嫁になるべきと考えている少女ライチとともに、早乙女らんまたちは中国寝崑崙に向かうが……


 1991年に公開された映画1作目。制作はスタジオ・ディーンだが、監督の井内秀治をはじめ演出陣はサンライズ系でよく見る名前が多い。リメイク版TVアニメの放送にあわせて初視聴した。

 同原作者の『うる星やつら』の映画シリーズ6作目と同時上映。TVアニメは終了して別会社でOVAを展開していた流れでつくられた『うる星やつら』は良好な作画だったが、こちらはTVアニメも同時展開していた時期なためか別スタッフを集めながら映像面が苦しい。
 74分の尺でそこそこ作画はたもっているが、映像密度はTVスペシャルに毛が生えたくらい。レイアウトやタイトルなどのテロップもTVと同じスタンダードサイズ前提。中嶋敦子作画監督に磯野智補佐で、原画に松本憲生馬越嘉彦佐々木政勝などがあつまっているのに、アクションシーンは当時なりで土煙エフェクト作画は記号的で平面的なカットばかり。そこそこ冒頭から多用している背景動画も映画としては簡素でリピートが目立つ。作画で目を引いたのはちょうど映画の中間*1くらいの主人公と敵首領のやりとり芝居くらい。
 監督の井内秀治やコンテ演出の近藤信宏日高政光など*2サンライズ系で活躍していた演出陣にあわせて、アニメーターもサンライズ系をあつめて独自の味を出せなかったものだろうか。
 ちなみに、同じくTV版と並行でつくられ、やはりサンライズ系で活躍しつつもTV版でもローテで参加していた鈴木行監督の映画2作目『決戦桃幻郷!花嫁を奪りもどせ!!』は、尺が1時間に短くなったとはいえ映像が全体的に向上し、ずっと作画も濃厚で見どころが多かった。


 物語にしても、セクハラキャラクターの八宝斎が冒頭から下着の窃盗をくりかえし、本筋の騒動の元凶でもあるため見ていてストレスがかかるだけ。
 エロティックな描写を生みだす装置として機能しているわけでもないので、ポルノアニメとして楽しむことすらできない。争奪対象として何度も下着は登場するが、キャラクターが着けている場面はないし、敵味方ともに露出度の高い格好はしない。
 いかにもアニメオリジナル映画の典型らしくセクシー系な敵幹部が登場して、八宝斎は必死に食いつこうとするが、先述のように露出度は高くないし戦士として行動するのでお色気を感じさせない。
 もしも低年齢の観客を念頭においてエロティックな描写を排除したなら、そもそも八宝斎を映画の根幹に置くべきではなかった。


 全体的にディテールも甘い。敵組織がアニメオリジナルらしいパターンでしかなかったり、ゲストキャラクターにたいしたドラマもなかったり、いかにも当時らしいアニメオリジナル映画のパターンを一歩も出ない。
 特にディテールでひどいのは敵地が中国らしくないこと。八宝菜が回想する過去の風景からして、嫁入り行列は日本的な白無垢を着た女性を輿に乗せて、ちょんまげ姿の男たちがかついでいたりする。そのため水墨画のような背景も中華風というより和風の印象になってしまう。現代中国の描写も通過点の港で木造船に人民帽をかぶったモブがいるくらいで、すぐ寝崑崙という異界めいた奥地へ移動する。1990年代なら書籍でも映像でも参考になる資料は充分あったはずだ。
 そして『死亡遊戯』のように主人公は敵幹部と順番に戦うわけだが、ここも首をかしげるところがあった。囲碁にあわせて主人公の周囲を巨大な碁石が落ちてくる敵の異能に対して、主人公が碁石の上に逃げることで逆に敵が打てば打つほど逃げ場が増えるという逆転をするのだが、碁石は打ったらそのままという間違った説明をしているのが難。主人公が間違っておぼえている、もしくは敵に敗北感をおぼえさせるため意図的に不正確な説明をしたという解釈はできなくもないが……

*1:開始39分ほど。

*2:山本裕介のみTVにローテで参加。