法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

日本動画協会の発表したレポートがアニメ業界の労働問題を矮小化してしまっていることを、データを引用された日本アニメフィルム文化連盟が批判

 どちらかといえば経営側の団体である日本動画協会に対して、業界のさまざまな階層からあつまった団体NAFCAが批判したかたちになっている。
アニメ業界の労働等の実態について | NAFCA 一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟

日本動画協会様の発表において引用された年間労働時間2,623時間という数値について述べます。この数値はNAFCA調査における労働時間の「平均値」を基に算出されています。
一方、極端な値の影響を受けにくい「中央値」を基に休日の日数を加味して算出すると、年間労働時間は2,745時間に上ります。
これは労使協定で定められる上限値である2,805時間に迫る数字となっており、やはり「アニメ業界従事者は長時間労働ではない」とは決して言えないのではないでしょうか。

 日本動画協会は若手アニメーター育成プロジェクトの委託が最も有名な活動だろうが、最初に事業をたちあげ委託された団体JAniCAも元アニメーターとはいえ経営者がたちあげてさまざまな会社の協力をあおいだ。
 労働問題の改善に経営側が協力して乗り出すぐらい当時のアニメ業界は切迫していたが、ようやく経営側と労働側の見解が対立するくらいに一般的な労働問題に近づいてきた、といえるかもしれない。


 近年は各社が育成に力をいれて、さまざまな試みが成果をあげつつあるが、そうして育ったアニメーターが大手に高額でひきぬかれるという嘆きも散見される。
 これも偽装請負を思わせる状況が一般的なアニメ業界において、ようやく一般的な企業の問題に直面するようになったのではないか、ということを以前にもコメント欄で下記のように書いた。
担当回が「作画崩壊」になるアニメ演出家の佐々木純人へのインタビュー記事と、それに対するアニメ関係者の反応まとめ - 法華狼の日記

直接的な関係はないが、金銭的な囲い込みだけでは育成を他社にアウトソーシングしているだけという佐山聖子監督の話。
https://twitter.com/mill_sister/status/1575266044926521344
もちろん京都アニメーションのように育成を意識的にしてこそ囲い込みの意味も大きくなる。ただ、これ自体はアニメ業界がようやく一般的な業界の問題に直面したという気も。

 ひきぬかれないようにしたいなら、アニメーターをきちんと雇用して、少なくとも不安定な立場に置かせないよう注意するべきだし、労働者の自由を制限せずとも雇われつづけてくれるくらい魅力ある職場を経営者は用意しなければならない。
 育成に先んじて力をいれていた京都アニメーションはそれで一定の成功をおさめていたし、だからこそ多くの重要なスタッフが失われる悲劇の後もスタッフがあつまって再び安定した作品をおくりだせている。


 また、アニメーターで実質的に最低賃金以下の労働をしいられている若手は、多くが動画という役職についている。動きのもととなる線画、いわゆる原画に指示どおり中間の絵を追加して動きをなめらかにするような役職だ。
 原画にステップアップするための育成的な役職でありつつ、アニメをつくるために必須の単純作業に近い役職でもあるところに難しさがある。動画までは会社に雇用されることが多いらしいが、出来高制が基本なので最低賃金をこえる仕事をするには相当の才能、もしくは仕事を早く粗くすませる割り切りが必要になる。単純作業なので外国の下請けに作業させることが多いが、それも国内スタッフの育成不足の理由と指摘されている。
 かつてJAniCA理事だったふくだのりゆきは動画の平均的な仕事量から1枚の絵に平均400円はしはらわないとフリーランスの一般収入にとどかないと指摘していたが、NAFCA関係者の西位輝実は800円を要求していた。


1番、おいおいと思うのは製作委員会や制作会社の集まりである動画協会様が具体的な改善策を何も言わないで、業界はよくなってると一点突破しようとしてるところかなぁ。国内動画を一枚800円にしてから言うてほしい。。。40年前から単価が変わらない(250円)とかアタオカ。

 経営者批判のため強めの価格を出しているところもあるだろうが、物価上昇や1枚の絵にかける時間の増加から考えればそれくらいの要求の高まりは当然という感じもある。