法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ベクシル −2077日本鎖国−』

近未来の日本を舞台とした3DCGアクション映画。ロボット産業に国際的な規制がかけられたため、反発した日本は国土を特殊なフィールドで覆い隠す「ハイテク鎖国」を10年間も続けている。そんな日本が海外で策謀を始め、主人公べクシルが所属する特殊部隊は国連の指示のもと日本への潜入を試みる。
GYAOで無料配信していたので見てみた。


どこかで見たデザインやストーリーだが、単発オリジナルSF映画としてはまとまっていたと思う。場面ごとの作戦目的は明確に説明され、きちんと伏線も引いているので、安っぽいなりにアクションを楽しむことができる。この程度のことをやっていないアクションアニメは意外と多い。後述するSFとしてのメインアイデアも悪くない。
しかし、どんどん壮大さを失っていく物語に残念さしか感じなかった。矮小な敵を用意して娯楽作品として完結させる方法論は悪くないが、壮大な設定を用意したなら敵を倒した後に変化していく世界などまで見せてくれないと困る。
日本が悪者扱いされている「反日」作品という噂を聞いていたが、問題はそこじゃなかった。日本の一企業が日本人全てを機械の体に変え、その企業に対する抵抗運動と一研究者が暴走したことで日本民族が絶滅するという超展開。研究者は意図的に矮小な人物で、高らかに主張していた理想に殉じていなかったという真相まであるくらいなのだが、だからこそドラマに対するカタストロフの規模が大きすぎて違和感ありすぎる。外部と連絡を断った実験都市か海上都市くらいに事件規模を抑えるべきだったのではないかと思う。もし日本国内に舞台をおさめれば、CG多用の実写映画として作ることができ、スラム街描写の違和感も少なかったかもしれない。


3DCGは当時の技術を思い出しながら見ても安っぽい。
アクションは手描きアニメや実写で困難な描写をしているのでゲームっぽくても許せるのだが、人間の芝居が問題。特に、頭髪と衣服の質感が全く表現されていないことと、中盤に描かれる猥雑なスラム街が少しも汚れていなくて生気が感じられないことが致命的。致命的な欠陥といっても、前者は近未来ならではの素材と設定し、後者はスラム街の贋物という演出にすることもできたはず。技術力に見合った物語内容に修正できなかったゆえの失敗と感じた。
人間等はセル画風に処理され、背景や兵器と区別されている。こちらも生気はないが、中盤で明かされる策謀の真相と関連しており、映像的なギミックとして意外な効果を上げていた。


以下、策謀の真相にふれる。
策謀の真相は、他国へ潜入させた人間そっくりのアンドロイドを利用し、思うままに操ること。全日本人の機械化はその実験もかねていた*1。そうして人類は進化するのだと敵研究者はうそぶく。
活力があると主人公が評したスラム街の人間が、実は機械の体という真相と、実際に目の前で故障する描写はショッキングで良かった。風刺としての面白さもある。しかし、実際にはスラム街が活力あるように映像から感じられない。スラム街も3DCGの特徴を逆用し、スラム街なのに清潔と主人公に評させ、機械の体だったという真相を明かせば説得力が出ただろうに。
敵研究者が赤い血を流すことで、理想に殉じていなかったとわかる描写も絵的に良かったが、逆に最後のアクションをしょっぱくする原因にもなった。敵味方がノロノロ足をひきずりながら追いかけっこするアクションをクライマックスに持ってこられても困る。

*1:ワクチン注射を偽装して機械化したという描写があるが、さほど比重を置いていないので、代替医療のトリックに引っかかっているわけではないと思いたい。