法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

とある日雇いのドキュメンタリスト

釜ヶ崎の日雇い労働者として生活しながら、ドキュメンタリー表現を行なっていたというK氏が公安に不当逮捕されたという。K氏が関わった作品は未見。
8月22日(日)、ドキュメンタリストであるKさんが不当に逮捕されました!これに対して救援活動がはじめられています。ぜひ賛同とカンパのご協力をお願いいたします! - FREE K! 4・5釜ヶ崎大弾圧に怒る仲間の会(旧・Kさんの即時釈放を求める会)

 8月22日(日)、わたしたちの仲間であり、NDS中崎町ドキュメンタリースペース)のメンバーであるKさんが、突然来た公安三課の刑事により暴力的に身柄を拘束され、逮捕されてしまい、同時に家宅捜索に入られるという事件が起きました。また、翌日朝には扇町公園にある、釜ヶ崎トロールの会の現地本部と、人民新聞社の編集部に対し家宅捜索が入りました。警察発表では、逮捕の理由として、「免状不実記載」(免許証の住所記載と現住所が異なる)と、「賃貸契約に関しての有印私文書偽造」(いままでの契約書類に書いていた保証人の名前を、更新時に継続して書いてしまっただけ!)があげられており、他二箇所の家宅捜索は、Kさんが立ち寄った場所だという無茶苦茶な理由でおこなわれました。

上記エントリの報告が正しいと仮定すれば、この程度の手続き不備でいちいち逮捕されてはたまったものではない。旅館で名前を書く時に偽名を使っただけで「有印私文書偽造」として逮捕するような、ありがちな別件逮捕であるが、だからこそ強く批判されるべきだ。
しかしブログの短い記述にとどまらない続報もほしいところ。報道機関や映画制作者団体は動いているのだろうか。とりあえず下記一覧で賛同者の名前は確かめられるが。
賛同者一覧(2010/8/30, 19:00現在) - FREE K! 4・5釜ヶ崎大弾圧に怒る仲間の会(旧・Kさんの即時釈放を求める会)
簡単に検索した範囲では逮捕に関する報道記事が見当たらなかったが、代わりに中崎町ドキュメンタリースペースを紹介する朝日新聞コラムが見つかった。
http://mytown.asahi.com/hyogo/news.php?k_id=29000221001050001
原爆を知らない世代が被爆者を撮ることの困難性が反省的に述べられていたり、単純に若手ドキュメンタリー作家達の肖像として見ても興味深い内容になっている。これを読む限りでは真摯に表現へとりくんでいたようだ。


ところで、K氏の不当逮捕を訴えるエントリには、今回の逮捕自体とは少し違う局面で興味深い記述があった*1

さらに、Kさんは、今年7月、日本政府と大林組を相手に原告となり、裁判を起こしたばかりであり、今回の逮捕は、表現の自由に対する弾圧であると同時に、この裁判に対する政治的弾圧であると、私達は考えています。裁判はKさんの働いていた現場で雇い主から、突然、日本名を名乗ることを強制されたことに抗議して、起こしたものです。日本という国家が植民地支配の過程で、天皇制による支配の下、朝鮮民族に日本名を名乗らせ、「皇国臣民」として生きることを強制したという歴史に対する無理解と無反省の中で行なわれたものであり、日本社会の中で在日朝鮮人として、本名で生活を行なえる当然の権利を勝ち取っていくための裁判です。

よく在日コリアンの「通名」を特権と呼ぶ人がいる。刑事事件の容疑者が通名で報道されることを、あたかも出自を隠すことで民族の罪過を隠しているかのように主張している*2。しかし現実には「通名」を要求される場面も多々あるのだ。たとえば、以前に裁判にまで発展した積水ハウスのトラブルでは、在日コリアン社員が名刺にハングルでコリアン名を表記していたという理由で顧客から差別発言を向けられた*3
これは通名を一律で名乗ればいいとか、その逆であればいいという話ではない。自身の名前を自由に名乗ることができない社会的抑圧が、異なる表れ方をしているのだ。はたして通名を特権と呼ぶ者は、通名を用いることになった歴史と葛藤に思いをはせているだろうか。

*1:政治弾圧という陰謀論は、今のところ肯定する要素も否定する要素も持ち合わせていない。

*2:そもそも、実際に犯罪を行なっていたとしても、一個人の行動で民族を蔑視するような態度は差別に他ならないのだが。

*3:すでに裁判は和解しているが、今でも「積水ハウス 裁判」といった単語で検索すればインターネット上の様々な在日差別の実態がうかがえる。