法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ラッキーナンバー7』

様々な不運な状況におかれた人々の物語が、冒頭から次々に語られる。八百長競馬を利用して大金を稼ごうとして大失敗した父親とその家族、話しかけてきた中年男性に殺された若者、恋人に捨てられ強盗に出会い友人ニックに騙された青年スレヴン……
対立するマフィア組織の抗争に、スレヴンは友人の代わりとして巻き込まれ、「ラビ」の息子である「妖精」を暗殺するように強要される。ニックの隣人女性リンジーから協力をえつつ、スレヴンは暗殺計画を手早く練っていく。周囲に警察も出没し、様々な思惑がからみあう中、ついに暗殺は実行に移されるが……


スレヴンを演じるジョシュ・ハートネットは『パールハーバー』『ブラックホークダウン』の主要登場人物だが、特別な印象は残っていない。しかし、そつのない個性薄めな演技が、この映画には適役と思える。
かわいらしい隣人女性リンジールーシー・リューが演じているのは、当初はミスキャストではないかと思った。しかし、中盤で明らかになる素性で、適役と納得できる。かわいらしいと同時に、きりっとした一面を持つ女優として作中の立場にぴったりあてはまる。この素性が、なぜ主人公が監視されていたかの端的な答えとなっているところもいい。
ブルース・ウィリスが凄腕暗殺者グッドキャット、モーガン・フリーマンベン・キングズレーがマフィアの長である「ボス」と「ラビ」を演じる。アフリカ系のマフィアとユダヤ系のマフィアが仲違いして抗争を起こしているという設定に驚いた。その意味が物語にはっきりとは反映せず、さらに驚いた。何かの映画的な文脈があるのだろうか。「妖精」もゲイだし、主人公の周囲は善人も悪人もマイノリティばかり。
それから個人的な印象論だが、『ドリームキャッチャー』みたいなB級映画ばかり見ているので、モーガン・フリーマンが名優だという意識がすっかりなくなってしまった。こういう矮小なマフィアのボスをきっちり演じてみせるところが、基礎演技力の高さを示しているとはわかるが。


さて、ネタバレでない程度に感想を書いておくと、よく脚本が練られた物語というが、基本的に予想範囲内。しかし映画は難解すぎても話を追えなくなるので、これくらいがちょうどいい。見返さなくても説明されたとおりに事件の構図が理解できる。
暗殺者グッドキャットのちっぽけできまぐれな良心も美しい。そしてその良心を受け取ったがゆえにグッドキャットの意図に反することが起きる結末、それを受け止めるグッドキャットの姿は、けっこうな文芸性が感じられた。
ただし、とある重要な回想場面に明らかな虚偽があることはいただけない。他の回想場面と違ってあくまでイメージシーンにすぎないことを示す伏線がほしかった。見逃しているのかもしれないが、見返しても明確な伏線がない。
もう一つ、冒頭の空港で若者が殺されたことが少し納得いかない。映画で示された情報を見る限り、若者の罪は自らを追い込む愚かさであって、他者を直接傷つける罪はおかしていない。あそこまでしなくても、単に気絶させて拘束し、時間いっぱいまで監禁する程度でも良かったのではないか。トリックのために死体を使いたいならマフィア構成員の中から選ぶか、若者が悪逆非道なことをしていたという描写をいれておくべき。