1939年11月8日、ヒトラーが演説を終えて退室したビアホールで、突然の爆発が起こった。わずか13分の誤算を除けば見事な手際の暗殺に、大規模な組織の存在が疑われたが……
『ヒトラー 〜最期の12日間〜』*1のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督による、2015年のドイツ映画。ヒトラーに対する無数の暗殺計画のうち、初期*2に決行されたひとつを描く。
- 出版社/メーカー: ギャガ
- 発売日: 2017/04/21
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
先日の『ワルキューレ』の感想で求めた物語構成になっていて、まず冒頭で暗殺の決行と失敗を描いて映画らしい見せ場にして、本編のゲシュタポの取り調べで主人公像を掘り下げていく。
『ワルキューレ』 - 法華狼の日記
成功するか失敗するかというサスペンスは成立しづらい。どうしても主人公がどのように失敗していくかを描いたメロドラマになる。
そこで、どれほど主人公が強い信念をもっていたか、どれほど誠実に状況に向きあっていたか、そして計画そのものは失敗しても歴史に何かしらの爪痕を残せたか……といった物語を展開すべきところだろう。
単独実行犯のゲオルク・エルザーはけっこう奇人変人のたぐい。いくら夫に暴行されていたとはいえ、人妻と恋仲になるのも、ちょっとどうかと思ったりもした。
とはいえ、少しずつ独裁の毒が国家にまわって戦争へなだれこんでいく恐ろしさに気づけるのは、そうした奇人変人の敏感さが必要だったのかもしれない。エルザーがけっして聖人君子でもなければ勇敢な闘士ともいいがたいところが、映画全体も味わい深くしている。
そんなエルザーを尋問したひとりとしてアルトゥール・ネーベをピックアップしたのも面白い。
残忍なゲシュタポでありながら、『ワルキューレ』で描かれたヒトラー暗殺計画に関与。なぜかドイツ敗戦直前まで処刑されなかったエルザーよりも先に絞首刑に処されるまでが後日談として描かれた。
映画の構成では、エルザーという特異な個人の信念が、敵組織人の心情にまで影響をおよぼしたかのようにも見えるのだった。