法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『雨月物語』

見ておかなければならないな、と以前*1に日記で言及した幻想映画。江戸時代に書かれた同名の古典連作幻想小説から、主題が重なる二編を選んで一繋がりの物語として再構成したもの。
溝口健二監督作品を見ること自体が初めてなのだが、なるほど現在の目で見ても娯楽作品として充分に楽しめる。霧中を進む前半の舟、屋敷の暗がりにて姫にとりこまれる中盤、後半の娼館での意外な再会、そして抜けるような白昼の下で廃墟と化した大屋敷……舞台ごとの見せ場がはっきりしていて、短い上映時間ながら長い月日と長い距離を旅した感覚も十全に味わえる。そしてそれゆえに、夢破れて故郷へ戻った終盤が感慨深く、喪失感を強める結末が胸に落ちる。
黒澤明監督作品より台詞も聞き取りやすいところも嬉しかった。かなり古い白黒映画ではあるが、役者の肉体から演技、衣装まで差別化が行き届いており、見ていて混乱することがない。


ただ、予想していたより引きの構図が少なくて、群集や美術も現在では珍しくない程度の物量しかなかった。予算を投じた大作ではなく、文芸性を前面に押し出した作家性の高い作品でもなく、手持ちの技術をおしみなく注ぎ込んで完璧に構成した娯楽小品といったところ。
男が全てを知る結末の特撮も、撮影方法がわからない観客はいないだろう。もちろん、視点の移動を自然に見せているので、撮影方法を理解しつつも作中の幻想に酔うことはできるわけだが。