法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太の人魚伝説

『ありがとう!30周年 映画ドラえもん公開直前スペシャル』として放映された1時間SP。映画『のび太の人魚大海戦』の序盤ノーカット映像7分間等、映画紹介に時間が割かれていて、物語本編は30分強といったところか。
映画は未見だが、内容紹介を見た限り、アニメオリジナルでは相変わらずのファンタジー臭が気にかかったな。ドラえもん映画は、大状況に対して個人の力だけでは解決することが難しいという世界観を貫き*1のび太達が主人公として活躍するにいたる状況を慎重に用意する点も魅力だったのだが。


物語は、のび太スネ夫が人魚の実在を討論する場面から始まる。そして当然のように議論で負けたのび太は、100年前に存在したらしき人魚の痕跡をタイムマシンで探しに行く。そこには、人魚を追い求めて嵐の海にくりだす青年がいた……
映画に合わせたアニメオリジナルストーリーだが、以前の映画公開直前SPと違って映画との明白な関連はなし。人魚の実在をうかがわせる描写もあるが、人魚という幻想的な存在を追い求める少年達のドラマが要点。あくまで人魚という題材が共通するだけだ。そのため、映画と全く独立した物語として楽しめる。
まず、討論の大筋は原作短編の「ネッシーがくる」に合わせているが、人魚の存在を肯定する観点や否定する観点をそれなりに集めて提示していることに感心。ネッシーよりも虚構性が高い人魚を、世界各国で似たような姿が絵として残されているという理屈で攻めるのはなかなか上手い。ジャイアンが議論の勝敗にかかわらず利益をえられる利己的な条件を設定してみせたり、しずちゃんが議論に乱入してコロンブスの逸話を引いたりと、原作にない魅力もある。反論のために人魚という伝説が生まれた背景をスネ夫が説明する場面も、豆知識的な面白味がある上に、人魚について知らない年齢の視聴者へ予備知識を与える効果があるだろう。
後の展開はいつものタイムスリップによるループネタであり、それとは別の人魚救出体験も真実を予想してくれといわんばかり。人魚は実在するのかも?というふくみを残したオチもパターン。しかし、そうして枯れ尾花な真相開示の後に、虚構としての人魚幻想を追い続けることの素晴らしさを正面から訴えていたのが、逆に良かった。たとえフィクションでも、それを受け取ったことによる感動は本物だ、と最終的に結論づけたことが素晴らしい。だから過去世界で人魚を目撃した男は絵描きだったのか、と納得もできた。

*1:具体的に、前期の映画は『海底鬼岩城』等のようにドラえもん達より状況に通じた協力者を必要とし、後期の映画は『ドラビアンナイト』等のようにスケールを小さくすることで対応していた。他には、全面的に戦って敗北しつつ、奇襲で逆転するという『鉄人兵団』等のパターンもある。