法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ルームスイマー/深夜の町は海の底

現監督体制による最後の放映*1。かなり力の入った画面と、身近な空間で架空の水を遊ぶという共通のモチーフで、スコシフシギな世界を楽しませてくれた。


「ルームスイマー」は、泳ぎを練習しようとするのび太のため、室内で泳げる水をドラえもんが出してやる。まずは浮き輪を使って楽しみ、はりきって練習を始めたが……
一演出家としては今後も参加するかもしれないが、善総一郎監督による最後のコンテ。作画監督は小野慎哉で、演出を担当している氏家友和は原画にもクレジットされている。
内容としては完全に原作通り。水のかたまりに入って部屋や廊下を泳ぐシュールな光景だけで楽しいわけだが、安全性で油断させてからの溺死の危機という急展開もよくできている。やや尺が短いこともあって、ほぼ展開を足し引きせずに作画の良さを素直に活用できていた。
すぐ泳げるようになると確信して失敗する展開も原作通りだが、ここで放り捨てた浮き輪が階段の途中に引っかかるアレンジがうまい。回収の難しさでサスペンス性を高めつつ、浮き輪の空気が抜ける展開の説得力を高めていた。


「深夜の町は海の底」は、スネ夫に対抗してスキューバダイビングを楽しむためにドラえもんが秘密道具を出す。そして深夜までかけて架空の水面を上昇させたが……
原作は素直に秘密道具を楽しむ珍しいエピソード。『電脳コイル』の元ネタかもしれないことで印象深い*2。リニューアル後の初TVアニメ化だが、すでに2010年の記念映画『ドラえもん のび太の人魚大海戦』で導入部分として映像化されている*3
やや尺が長めとはいえ、あくまで短編なのに作画監督が4人もクレジットされているところが目を引く。多人数でごまかしたというよりも総力戦という印象で、特殊な情景が要求されるエピソードを見事に映像で支えていた。部屋を水浸しにする序盤はイタズラのような楽しさがあるし、架空水で満たされた深夜の街は美しい。街灯に照らされて浮かぶクラゲが幻想的だ。さまざまな海棲生物もアニメとして魅力的に作画されていた。
興味深いのは、終盤の展開を原作から変えていること。原作では、特殊なガスで架空水に巻きこんだ魚にサメが混じっていたため、あわてて魚を追い出して楽しい時間が終わる。対する今回のアニメ化は、同じようにサメが登場するもののドラえもんたちはイルカと思って安心し、遊び疲れて仲良く寝てしまう。そして残っていたサメがスネ夫の家の池に入っていたというオチ。原作のオチは巻きこまれていた船が民家の屋根にとりのこされるというものだが、ひょっとして津波を連想させるという理由で改変されたのだろうか*4


本編終了後にはイベントの告知と、来年の映画『のび太の宝島』の長めの予告映像も。角を丸めたギザギザの描線に、やや原色によせたカラー設計は、リニューアル前のアナログ時代な劇場版を思わせるビジュアル。
そして告知映像のスタッフとしてクレジットされていたクレジットされているスタッフを見ると、今井一暁が監督というところまでは予想だが*5川村元気が脚本とはまったく予想できなかった。映画化もされた小説『世界から猫が消えたなら』は、未読だが設定こそ藤子F作品に通じつつ、SFらしい緻密さや世界観の広がりがないと聞くので、やや不安ではある。