法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太の恐竜/のび太の惑星探査ミッション/マジックの使い道/どら焼きが消えた日

通常通りの放映枠に、別番組をはさんで18時56分から1時間枠で誕生日SPが放映されるという変則構成。土曜17時からの放映という枠の難しさを感じざるをえない。
すべて新作の誕生日SP部分は、本来は今年に公開される予定だった映画にあわせてか、宇宙テーマにそろえている。


のび太の恐竜」は、2020年の誕生日SPでつくられた中編の再放送。通常枠で放映された。
hokke-ookami.hatenablog.com
中国で発見された恐竜の化石の学名に「のび太」がついたニュースを紹介するための選定だろう。
dora-world.com
実際に研究者のインタビューが紹介されたり、川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムに展示されているとの告知がされた。


のび太の惑星探査ミッション」は、出木杉しずちゃんが自由研究でペットボトルロケットを語りあっているのを見て、のび太も対抗しようとする。そこにスネ夫ジャイアンも参加してきて……
内海照子脚本、そーとめこういちろうコンテのアニメオリジナルストーリー。地球に落着した時の土煙エフェクト作画の立体感が良い。
物語は、2003年の探査機はやぶさのサンプルリターン成功を思わせる。想定されている幼い視聴者にとっては、おそらく科学史の出来事として学校などで学んでいるエピソードだろう。
夏休みの自由研究のため、珍しくジャイアンスネ夫と共同で全面協力。骨川家が拠点として提供され、追加購入にお金をつかいはたしたドラえもんのため、スネ夫がフランス製の美味しいドラ焼きを贈るし、ミッション中は豪華なスイーツを三人で味わう。きっかけがスネ夫の増長とはいえ、ミッション自体の難しさに向きあう物語である以上、人間同士の争いに無駄な尺をつかう必要はない。
身近な道具をマニピュレータの先端につかうことで、カプセルの確保しやすさなどがビジュアルでわかりやすいところが良かった。いかにも物をつかみやすい枝分かれしたスネ夫のマニピュレータが帰還時に破損する一方、物をつかみにくいハンガーをつかったのび太のマニピュレータは最も耐久性にすぐれているという逆転が、深読みかもしれないが視覚的な説得力があっていい。ドラえもんのび太を助けるために真空の宇宙へ行き、どこでもドアから空気が流れこむディテールが細かくて良かった。
そしてスネ夫の探査機が軌道を外れた事故から、ライバルとしてミッションを競っていたジャイアンのび太が心底から協力をはじめていく。せっかく確保したカプセルを捨てていくことで、それぞれの少年の決意がきわだつ。びっくりするほど娯楽活劇として正面からやるべきことをやりきった。
ただ、探査機の装飾につかわれた骨川父の勲章が大気圏再突入で燃えつきたのに、まったく言及されないまま骨川母の指輪がもどったことだけ喜んで終わったのは首をかしげた。クレーターのなかから骨川母がはいでて、ミッション成功とわかった瞬間に終わるオチの切れ味を重視したかったのかもしれないが、それならば燃えつきる前に勲章は捨てることを決断する場面を入れても良かったのでは。


「マジックの使い道」は、スネ夫のような手品を自分もできると口走ったため、のび太は秘密道具の力を借りることに。
後期原作を2005年リニューアルから初のアニメ化。後期作品なのに、のび太の手品を誰も秘密道具と思わない描写は原作どおり。
全体の構成も原作どおりで、入れかわる状況を主に答案関係で追加。特に秘密道具の機能とは関係ないが、たまたま答案と「とう」が共通するものばかり入れかわるギャグもくりかえされると楽しい。
ポストに入れかえて突進をふせいだり、小枝をハードルに変えたり、ジャイアンスネ夫から逃れるための工夫を追加しているアレンジも良かった。そこからさらに先生を盾にしようとしたところ、逆に逃げ道をふせいでしまって原作展開にもどる展開もよくできている。
ただ、のび太がオチで自身を入れかえたのが猫ではなく鼠になったのは、もちろんドラえもんを驚かすギャグを優先したためだろうが、のび太が屋根の上に乗っている情景に違和感が生まれたのは残念。このアレンジなら、たとえば屋根の上ではなく屋根裏に閉じこめられる情景だったら整合性がたもてたと思うのだが。


「どら焼きが消えた日」は、誕生日のどら焼きを期待していたドラえもんだが、朝に起きるとすでに誕生日の翌日だという。ドラえもんも楽しんだというが、その記憶がない……
内海照子脚本、山岡実コンテ演出のアニメオリジナルストーリー。1時間たっぷりではないが、そこそこ長い尺でアクションアニメが展開される。
物語も今回のSPで唯一誕生日らしさがある。アバンタイトルの謎めいた異星人の侵略から、ジャイアンスネ夫を思わせる異星人の襲来は自己パロディかと思いきや、秘密道具をつかったサプライズ演出のための変装という展開に見ている側としても驚いた。
しかしドラえもんを驚かすためのドッキリ設定が現実と同じという展開は、さすがに偶然にしても物語の都合が前面に出すぎている。虚構の危機と現実の危機が偶然にかさなって混乱を生む展開は大長編の『銀河超特急』等の前例があり、原作らしさはあるのだが……もう少し関連性を足して展開の説得力がほしかったところ。
ただ誕生日SPらしく作画演出はかなり力が入っていて、アクションアニメとしては楽しい。巨大な合体異星人の怪獣映画じみた構図なども良かった。原画に山口晋がいたのは映画の仕事がもう終わっているからだろうが、江口寿志*1がいたことにびっくり。一応、最近も映画にアニメーターとして参加はしているが。

*1:たまたま漫画家の江口寿史と同音名のアニメーター。