護憲もいろいろ。相手のスタンダードを固定観念から決めつけて、ダブルスタンダードと呼ぶ光景はネットにありふれている。
はてなブックマークのコメントに前後しながら返答。
はてなブックマーク - 何がダブルスタンダード？ - 法華狼の日記
Mukke 釣られないクマー 今回の場合，加害者が「殺されるのも，殺すのも断固拒否をする！」「暴力と殺戮の歴史を断ち切ろう」とか言っちゃってるんでダブスタ以外の何ものでもない．今回の加害者の振る舞いはブッシュなんて目じゃない域． 2009/07/22
釣れたクマー。
……さて、それらのカギカッコで引用された意見と、憲法9条を護るべきという意見が直接的に結びつくならば、JSF氏の指摘は全く正しかったかもしれない。しかしどちらかといえば、注記で書いた無防備都市運動との関わりが強い文言に思える。
注意しておきたいのは、9条を主眼とした護憲論には、様々な考えがあり、それぞれにスタンダードが異なること。前回では示唆しただけだが、非武装や無防備都市宣言運動と9条堅持は同一の思想ではない。
たとえば、自衛隊の存在は無くせないことを認めた上で、憲法9条を残すべきという考えがある。積極的に自衛隊を無くすことは主張せず、かといって憲法9条を改憲するつもりもない現状維持な態度は、国民の大半がとっているのではないだろうか*1。
あるいは、自衛隊が違憲であるという理屈で改憲するなら、違憲状態を引き起こしたことの後始末が必要だが、誰も後始末しそうにないので消極的に改憲反対という意見もある。現状の自衛隊を解体した上で軍隊を作るという、どちらかといえば非武装論と対極にある護憲論だ。
そもそも、憲法で禁じることができるのは集団的自衛権であって、個々人の自衛権まで奪うことはできないという指摘もある。
さらに、他国と海をへだてている日本の固有性に着目し、軍事力を不要と主張する意見もある。ちなみに保守系作家の半藤一利氏も似た指摘をしていた*2。冷戦も終わり大きな戦争が起こりにくい現在では、北朝鮮等に対処する場合でも高価な兵器より公安警察や海上保安庁へリソースを割くべきという考えで、わりと強い説得力を感じている。
くりかえしになるが、JSF氏を批判しているのは、護憲論に関わる理路に限って。事件を起こした個人の内面については、次のエントリで。
Talgo 個人の武装と国家の武装は別の話。国家の武装は肯定するが個人の武装は否定する人だっているでしょう。それもダブルスタンダードなのか？ 2009/07/22
護憲論にはJSF氏が考えるよりも多くのスタンダードがあり、JSF氏が指摘したような理路でダブルスタンダードだったとは限らないという話をした。加えて、改憲論にも様々なスタンダードがあることも示唆した*3。
つまり、論が内包するスタンダードの多様性を指摘し、ダブルスタンダード認定に慎重さを求めたわけ。だから「それもダブルスタンダードなのか？」という問いはJSF氏に対してと思うが、念のため主語を入れてほしい。
kurokuragawa コメント欄, 左翼, ？, これはいたい 昔から「理屈と膏薬はどこにでも付く」などと申しますが… 2009/07/22
異なる理屈がつく、つまり異なるスタンダードが想定される状況で、安易にダブルスタンダード認定をするべきではないはず。
たとえばkurokuragawa氏は麻生支持者だそうだが、他の麻生支持者と全く考えが同じではないだろう。そして、一部を全体に拡大した論で他の麻生支持者が批判された場合、その麻生支持者という部分の多様性について指摘しようと思わないのだろうか。
NOV1975 社会 思いっきり「人間の理性には限界があり、無防備は暴走を止める手段足りえない」ということの証明にしかなっていない気がするんだが。ダブスタという言葉はよくないかもしれないがそれ以前の問題。 2009/07/22
加害者の視点でいうなら「無防備」ではなく「無防備論」ではないだろうか。被害者の視点でいうなら、被害者が防備を全くしていなかったかどうかは不明瞭。防備をしていた場合に暴走を有為に止められたかも不明瞭。
しかし、「ダブスタという言葉はよくないかもしれない」という点で合意できれば今は充分かな。
*1:憲法と9条に対する態度の多様性と合わせて参照。http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20090504/p2、http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20090121/p1
*2:ただし、立ち位置は現状維持に近い。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20071214/1197642796
*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20071214/1197642796で紹介した戸高一成氏の意見等。
