法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『おくりびと』

以下の感想はネタバレをふくむ。


必ずしも好きな題材ではないが、笑いあり涙ありでベタに面白くはあった。役者にも美術にも目立った破綻はない。演奏家という不安定な職業につきながら、不況であっさり解雇される主人公に、色々な意味で感情移入できた。
あえて不満をあげるなら、家族の問題に収束させてしまう結末が、ちょっとベタすぎて残念だった程度。


さて、この映画では死を扱う職種に対する差別も描かれているが、個人的に面白く感じたのは冒頭におけるセクシャルマイノリティ描写。
厳粛な空気を笑いに転嫁させ、一気に観客の興味を引き込む描写なのだが、ここで笑いを誘うのはマイノリティそのものではない。マイノリティを前にして、取るべき態度がわからずに右往左往する主人公のつたなさが笑いを誘うのだ。つまりマイノリティを笑うのではなく、マジョリティである観客自身が自らを省みて笑うわけ。念を押すように、映画の中盤でセクシャルマイノリティについてのフォローも描かれる*1
このような地味な描写が、北米でも評価された一因かもしれないと思った。

*1:家族がセクシャルマイノリティへ比較的に理解を示しており、現実における厳しさを描いていないといえるかもしれないが、映画の力点から考えれば自然に許せる範囲だろう。