法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『るろうに剣心』

明治初期、激動と内戦の対立と記憶が尾をひく時代に、かつて志士として殺戮をくりかえしていた主人公が切り結ぶ。
その敵は、資本で他者を抑圧する新時代の象徴と、かつて互いに殺しあった旧時代の遺物。


人気少年漫画を実写映画化した作品。金曜ロードショーで放映されたものを視聴した。
原作は、アメコミの影響を受けた奇妙奇天烈な装束と能力の敵と次々に戦っていくという、いかにも雑誌連載漫画らしい作品だった。それを再構成し、それなりに一本の映画として見ごたえのある作品にしあげている。
原作では序盤の山にあたる偽主人公との対決をクライマックスに配置し、その次に戦うはずだった阿片商人を先にかたづけたところが特にうまい。まず多人数との大規模な戦闘で満足させ、一対一の戦いで主人公に過去の罪をつきつけてドラマをほりさげる。
殺陣の質と量にいたっては、評判どおり実写邦画で最高峰のひとつだ。動きの華々しさ、まいあがる土ぼこり、カット割りの呼吸……総合的な印象としてはアニメ映画『ストレンヂア無皇刃譚』にも匹敵する。


俳優ごとに別れているらしい評価も、個人的には全体として良かったと感じた。それなりに殺陣ができる俳優をそろえており、所作に違和感がほとんどない。
神谷薫など、俳優のつたなさがうまく配役にあっていて、批判が集まっているらしいことが理解できなかった。子役を配するしかなかった明神弥彦も、出番を抑えているから見ていられる。
他に批判されているらしい斎藤一も、新時代の秩序に生きることを選んだ元新撰組として描かれているので、「悪即斬」をむねとする一匹狼のようだった原作とは土台から違うと思えば理解できる。映画オリジナルの立ち位置になった斎藤一がいてこそ、新撰組というわかりやすい明治維新の象徴を画面に登場させつつ、志士時代の主人公と新時代の主人公を結びつけることができる。


しかし、ほとんど全て改変もこみで悪くなかったと思うのだが、たしかに斎藤一の必殺技「牙突」だけはないわ……
空中におどりあがる意味がわからないし、そこだけ不自然でワイヤーワークが露骨だし、何をやっているのかほとんど映像としてわからないし。
とびあがってシャンデリアを落とすのではなく、部屋中央にある重い机を突きで吹き飛ばしてぶつけるくらいの描写で良かったのではないか。