法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『佐武と市捕物控』第1話 三匹の狂犬

石森章太郎原作。無料配信サイトGYAOで視聴。1968年に制作されたモノクロTVアニメだが、時代劇作品ということもあって、全く古びていない。
まず、りんたろう、真崎守といった一時代を築いた演出家の手によるだけあって、映像に力強さがある。白と黒の陰影だけで、嵐の夜から快晴の朝、薄汚れた島、森の暗がりまでが表現されているのだ。時代劇ではおなじみな捕物の提灯行列も、くりかえし奥から向かってくる構図や、水面に照り映える姿などで、洒落た絵を作り出す。
もちろん作画には細部で力不足な面もある。回り込み作画の枚数は足りないし、止め絵も目立った。しかし荒々しい描線は魅力的だし、原作の絵柄も適度に反映されている。重要な殺陣も細やかに動いており、多用される俯瞰のロングショットにも破綻がない。引いた絵が破綻していないのは背景美術の力もあるのだろう。
物語もいい。まず悪人達が足抜けした経緯を嵐の一夜で暗に示しつつ、残虐さを印象づける。続いて嵐によって壊れた屋根を直す場面で、生活感を出しながら手早く主人公二人の特徴を印象づける。そして人物ごと舞台ごとの特性が活かされた殺陣を見せつつ、佐武が目明かしになるというシリーズ全体の目標を提示して、きっちり物語が決着する。一話で完結させるため、話運びに一切の無駄がない。現在なら規制されそうな描写も多いが、弱き者への優しい視座があるため悪い印象はなく、むしろ歴史の断片を見ている趣が感じられる。


『WEBアニメスタイル』の特別企画と合わせて見ても楽しい。余裕がなくても、言及されている回には目を通しておこうかと思う。
WEBアニメスタイル_特別企画
それにしても、GYAOでは現在『佐武と市捕物控』の他にも『はじめの一歩』『あしたのジョー2』『ベルセルク』『カレイドスター』といった粒ぞろいの名作佳作が一週間につき数話まとめて無料配信されているわけで……嬉しくないかと問われれば嬉しいのだが、もう少し何とかならなかったものだろうか。これではさすがに全て目を通す余裕はない。