法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『戦隊大失格』雑多な感想

 ラブコメ漫画『五等分の花嫁』の春場ねぎによる戦隊ヒーローパロディ漫画を、『TIGER&BUNNY』や『いぬやしき』のような高年齢向け変化球ヒーローを手がけてきたさとうけいいち監督が2024年4月にTVアニメ化。

 作画はすごい。制作会社が異なる1期2期ともに作画の水準が低かった『五等分の花嫁』はもちろん、TVアニメとしてはがんばって原作を再現しようとしているかなと思えた『いぬやしき』を超えて、1話1話が整って高度に安定し、それが潜入サスペンスの緊張感をささえている。
 キャラクターの手描き作画が精緻によく動くので、止め絵をデジタルでゆがませたり3DCGで描画する手法をおりまぜても違和感なく映像が流れている。作品の根幹設定のため爽快感はないものの、アクションや爆炎もよく動く。第1話から近藤高光がいれば桝田浩史もいて、以降も山田起生などが原画として参加。
 中盤で修正が追いつかなくなった感じはあったが、多数の作画監督を投入して回復。同じ放送枠で制作が破綻して終盤を放送延期した『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』との違いを見せた。
 ただし原作に由来するデザイン関係は、まったく戦隊パロディらしくない。巨大戦がないのはシリーズ初代も同様だからいいとして、口元があいているヒーローデザインが致命的。候補生にいたっては完全に顔出している上、肩から肘まで生身をさらしているところもスーパー戦隊とは異なるファッションセンス。


 内容もスーパー戦隊パロディとして首をかしげるどころか、チームヒーローパロディらしくない。監督もインタビューで原作の戦隊パロディらしさが薄く、主人公はヤンキーのロジックで動いていることを指摘している。
戦隊大失格:戦隊パロディーではない ロジックはヤンキーマンガ? さとうけいいち監督インタビュー - MANTANWEB(まんたんウェブ)
 まず、怪人の主人公が弱くて再生能力が高くて不死身に近いため、やられ役としてヒーローに虐げられる前半について。
 ヒーローではなく敵組織の視点で描いた作品はすでに『怪人開発部の黒井津さん』などがTVアニメ化しており、弱い怪人の視点で悲哀を描いた作品もライトノベルで見おぼえがある。ここまでは反発するまでもなくパロディとして定着した類型ではある。
 しかし東映スーパー戦隊を連想させるモチーフでありながら、導入からして話の構造がまったく異なる。すでに敵幹部がすべて倒され、敵に戦う動機が消えた世界であり、本家の本筋にあたるパートは終わっている……というだけではない。各話のストーリーをゲストキャラクターと敵組織によって起動していく本家とちがって、敵側でドラマを動かすのは生きのびて戦隊内にもぐりこんで策謀をつづける主人公ひとりだけで、全体としては戦隊組織内の多数のキャラクターの陰謀や思惑で物語が動いていく。この連続ストーリー性が一番近いのは特異例の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』だろうか。
 主人公たち敵組織が戦隊組織の構造にくみこまれて搾取されているので、実は善悪の逆転パロディにもなっていない。侵略組織の末端だった怪人たちは表層的に侵略者としての意識を語りあうが、そもそもなぜ侵略しようとしたのかという組織全体の根本的な思想や動機はなかなか描かれない。前半までは巨大組織の上層部に末端が反逆しようとして潜入能力でもぐりこんで陰謀劇にかかわる、そんな構成になっている。これでは主人公の立ち位置を怪人にする必要すらない。
 組織の構成も本家らしくない。怪人組織こそ作品によって組織がないくらい変化が大きいので違和感は少ないが、戦隊組織は根幹も表層もまったく本家と異なるので逆から見たパロディになっていない。系統色ごとに構成員がふりわけられ、最前線で戦うメンバーがそれぞれの頂点に位置するヒエラルキー構造は本家の定番ではない。本家は基本的に戦隊メンバーが前線で戦わざるをえない立場であって、指示を出す指揮官は別にいることが多いし、サポートメンバーは戦隊とは外見から差別化されている。原作連載開始後に放送された変化球『王様戦隊キングオージャー』でようやく近いくらいだ。


 そもそも初回にコロシアムに観客をあつめて戦隊が敵を倒す娯楽をおこなっている時点で、スーパー戦隊どころか一般的なチームヒーロー作品とも世界観がかけはなれていて、逆に怪人視点の面白味が弱くなっている。
 導入にかぎれば、さとうけいいち監督のオリジナルヒーローアニメ『TIGER&BUNNY』の悪趣味パロディという印象が強い。

 これならば別のモチーフをパロディして同じ構造のストーリーを展開すれば、耳目をあつめないかわりに反発もうまれなかったのではないだろうか。
 たとえば欧風ファンタジーRPGパロディ的に設定して、主人公をふくむ雑魚モンスターたちを勇者一行がコロシアムで一方的に倒す剣闘にすれば、史実のローマを反映したリアリティを確保しつつRPGパロディの類型に自然におさまったのではないだろうか。そこからスライムなどが擬態して人間の貴族社会などにもぐりこむ類型もすでに完成しており、ずっと違和感なく同じ展開がうけいれられただろうとは思う。


 やがて回想で怪人組織側が地球の先住者っぽい台詞が入って、スーパー戦隊とは異なる特撮ヒーロー類型に移行するかと思いきや、後半からは逆に生きのびていた敵幹部の残虐な戦いが戦隊候補生の最終試験と並行して描かれていく。
 戦隊メンバーで完全にヒーローらしくないのはレッドだけと明かされ、他メンバーや部下はダークヒーロー的な内面を見せていく。前半にあった良くも悪くも作品の個性だった部分が消えた感もある。
 そもそも幹部が生きているなら、戦闘員に幹部を演じさせてコロシアムで週一で怪人を倒すショーをする意味がわからない。普通に敵幹部が生きのこっていることを周知して残党と戦いをつづけるだけで良かっただろう。後半はコロシアムでショーをおこなう日常も回想でしか描写されなくなった。
 幹部の人格を知っていたはずの主人公が今さら反発することも納得しづらい。キャラクターが何をどこまで知っているのか、デスゲーム的な最終試験の騙しあいのような短期は悪くないが、作品の根幹部分のような長期になると伏線が足りないし前半のドラマの解釈を捨てざるをえなくなる。
 せめて戦隊ヒーローだけでなく敵幹部も残虐と初期に明かしておけば、主人公が末端の無力な怪人でありながら仲間と協力せずに個人で反抗しようとしたことに納得しやすかったと思うのだが。
 原作は人気らしく連載をつづけており、TVアニメも2期が予定されているが、視聴しつづければパロディとして納得できる作品になるのだろうか。