法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『Us アス』

 米国で、人間の鎖で大陸を横断するハンズ・アクロス・アメリカというイベントが開催された1986年、ひとりの黒人少女が海岸にある遊園地のミラーハウスで鏡写しの恐怖を体験する。
 現在、黒人一家の母親が海岸に来ていた。その近くにあるミラーハウスに何かがあることを知りながら。そしてその夜、黒人一家の別荘の外に、一家そっくりの怪しい人影がならんでいた……


 2019年公開の米国映画。『ゲット・アウト*1につづくジョーダン・ピールの監督2作目にあたり、脚本も単独で担当した。

 惨劇は何も起きないのに恐怖をかもしだす冒頭からしてホラー映画としてはすばらしい。そして変化球ホームインベージョンホラーからゾンビ亜種ホラーに接続され、都市伝説ホラーとして終わる。ひとつの設定で多様なホラージャンルを横断して楽しめる良さはあった。それぞれのパートの恐怖演出も抵抗するアクションもクオリティが高いし、特殊な設定のおかげで恐怖の存在のふるまいに新鮮味もある。「警察を早く」を翻訳した日本語版スタッフもうまかった。
 しかし作品を成立させている根幹の設定にまったく説得力がない。なんらかの都市伝説にもとづく米国現地ではそれなりに理解できる設定なのかもしれないとは思ったが、明確な超常現象がからまない国家の大規模な計画が数十年前におこなわれていたという陰謀論を、どのように実現できたのか見ていて納得できない。同じ超技術をもちいた根幹設定でも特権階級が超技術を隠していた『ゲット・アウト』とは説得力が異なる。たとえばクトゥルー神話を引用した『稀人』のように、もっとホラー映画なりのリアリティを感じさせたり観客に納得してもらう方法はありえただろう。そもそも終盤の設定説明がだらだらと長くて、単純に映像として面白味がなく物語の進行が止まる問題もあった。

 最後に明かされた真相は予想できるなりに細部の違和感が一気に説明される良さはあったが、根幹設定への悪印象をくつがえすにはいたらなかった。家族でひとりだけ秘密をもった主人公と、何かを感じたらしい息子の描写から結末にながれる余韻は良かったが……