灌木が点在する北米の砂漠でひとりさまよっていた幼い少女を警察が保護する。そして近くにあったキャンピングカーに行くと、巨大な力で破壊されていた。何に対しても反応しない少女は、いったい何を見たのか。そして砂漠に謎の鳴き声がこだまする……
放射能で巨大化した蟻が人々を襲う、1954年に公開された米国映画。監督はゴードン・ダグラス。
サスペンス映画をよく撮っていた監督らしく、さまざまな異変の痕跡から少しずつ事態の全貌をつかんでいく展開がていねい。巨大蟻の生態を調べたり、全滅させるための状況確認といった段取りもしっかり入れていて、お約束にたよれない古典作品だからこそツッコミどころが少ない。
約1時間半でエンディングがない映画なのに、開始30分以内に巨大蟻が姿をあらわす早さも意外。以降はあちこちに繁殖する巨大蟻をさがしてつぶしていく物語が展開される。
砂漠を彷徨する少女や、砂嵐がつづくなかで鳴き声だけ聞こえる恐怖、巨大な巣穴にうごめく蟻たちなど、絵になる独自性あるカットも多い。基本的には人の善性を信じる活劇だが、放射能によって怪獣化した蟻がまた出てくる可能性を懸念する結末などで、ドラマ重視の怪獣映画の類型の起源も見受けられる。
ただし状況を秘匿するため巨大蟻と遭遇した被害者を主人公が精神病院に入れたままにしたり、全体的にエリートパニック感が強いことは気になった。文字通り「パニック」を恐れる台詞もある。非専門家を信じなさすぎというか。そのためか蟻の専門家が口頭で説明する場面が多すぎる感もあった。素人の意見が効果をあげすぎる怪獣映画のパターンも、それはそれであまり好きではないが。
巨大蟻は全体としてハリボテ感がある軽さで、ミニチュアを使用した特撮が楽しめないことも残念だったが*1、ピアノ線の吊りをつかわずアームで支えて動かす巨大パペットなので、気になるほどの粗はない。ヒロインの背後から巨大蟻がヌッと顔を出す初登場カットは、同年のゴジラ初登場カットを思い出させる*2。
『エイリアン2』への影響がよく指摘される作品だが、見ていて『遊星からの物体X』*3を少し思い出したりもした。数少ない生存者が何もない場所をうろついている空撮から物語がはじまるところや、閉鎖環境で火炎放射器をつかう駆逐方法など。原題と邦題の両方も似ているといえば似ている。また、聖書から引用する博士の台詞や、都市の地下に軍隊がもぐって被害者を救出する描写は『ガメラ2 レギオン襲来』に影響をあたえている気がした。