法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

 マリオとルイージの兄弟は配管工。全財産をつかったCMのおかげか、独立してすぐ仕事が舞いこんできたが、その家のペットに邪魔されてしまう。それでも大規模な配管事故を知って地下にもぐっていったところ、兄弟ははなればなれになってしまう。マリオは苦手なキノコで満ちた世界に。ルイージは不思議な怪物の徘徊する薄暗い世界に……


 2023年に公開された日米合作の3DCGアニメ映画。ただし原作の任天堂が細部まで監修しつつも、あくまで制作会社はイルミネーションで、監督や脚本などのメインスタッフもほとんど米国側のよう。

 ジャンルとしては異世界転移アニメのひとつといってもいいかもしれない。序盤の現実世界でのパルクールアクションも充分に楽しいが、都市伝説的な描写から一気に世界が裏返る。
 キノコ王国でピーチ姫だけ人間に見える設定にも映画独自の説明がつけられた。世界観ともども“本当は怖いマリオ”と解釈されそうな不穏感がある。それでいて『白雪姫』のようなものと思えば童話的な世界観にあっている。
 全体的にゲームらしい軽い雰囲気の映画において、孤立したルイージも恐怖でひきしめる。なかでも森をさまよい、骨だけの怪物カロンに襲撃されるあたりは完全にホラー映画の文脈で演出されていて楽しかった。


 物語は想像以上に簡素。約1時間半*1と短い映画で、いかにもゲーム的なアクションをくりかえす。シチュエーションにバラエティがあるので恐れていたほどには飽きなかったが、どうしてもアクションをおこなう場面ではドラマが停滞する問題を感じざるをえなかった。
 展開もゲームのように都合よく助けてくれるキャラクターと主人公を即座に出会わせ、弟を助けたい主人公に今するべき目標をあたえつづける。複数の選択肢から主人公自身が選ぶことのない一本道。無駄な失敗のいっさいない展開はストレスがないだけでなくドラマもなくなる。
 異世界から現実世界にもどるクライマックスも、普通なら主人公の戦う動機を問いなおすところだろうが、残り時間が少ないためか主人公の心をゆらがさない。ゲームにおける活躍がリアルにおける活躍に接続される以上の意味がない。弟ともに街のため活躍するという主人公の当初の目的を満たす展開ではあるし、ゲーム愛好者向けのファンムービーとしては心をくすぐる描写ではあるのだろうが。

*1:プライムビデオでは各国の翻訳を手がけたらしきスタッフが順番に数分間流れる。