法華狼の日記

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『佐武と市捕物控』の出崎演出に対する影響についていくつか

出崎の断片収拾〜どろろと佐武市 - まっつねのアニメとか作画とか
単に止め絵を用いる省略技術ではなく、動きを止めることで意識的に情感を盛り上げていく演出は、『佐武と市捕物控』では第7話「涙の逆手斬り」が最も印象的だった。光を見つめるクライマックスの一場面は、入射光に近い感覚もある。
『佐武と市捕物控』第7話 涙の逆手斬り/第8話 魔の当りくじ - 法華狼の日記
ただし、画面分割や3回PANのような出崎統らしい演出はシリーズを通して存在しなかった。
出崎演出の画面分割に関しては、古くから映画『グラン・プリ』の影響が指摘され*1、実際に読売新聞のコラムpopstyleでのインタビューでも注記されたようだ。
もう一つの3回PANについては、popstyle公式ブログで言及されていた。出崎監督自身によれば、特定の影響は受けていないとのこと。
燃え上がる出崎統監督記事反響 : popstyleブログ : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

さて、紙面に収容しきれなかったお話で興味深かったことをひとつ。写真画像ではどうにも説明しづらい「3回パン」…繰り返しショットの手法について。

止め絵が3回(ときにはそれ以上)ヨコ或いは上からやってきて効果音と共にバシっとキメる手法。あれについて、何か影響を受けたものがあるのかうかがったところ「特にない」とのこと。「歌舞伎の拍子木を打ち鳴らしている雰囲気のようですね」と申し上げたら、「歌舞伎で時空をポン、と飛ばす時の効果が、オレのアニメと似てるよね。でもオレは歌舞伎見始めてまだ10年も経たないけど(笑)」。


ちなみに、『佐武と市捕物控』は後半の評価が落ちることは確かだが、木村圭市郎作画回が3度もあって楽しめる。辻真先脚本回もあって、こちらは肩の力が抜けた時代劇らしさが良かった。
あと、第43話だったと思うが、やたら後半で作画がいい回があった。木村圭市郎作画のようにフォルムや動きで楽しませるというより、現代的にキャラクターが整っているという意味合いの良さ。水滴が流れる場面など、美術の力もあいまって過去のアニメとは思えなかった。馬の幻影も登場したし、第43話こそが「WEBアニメスタイル」で作画が賞賛された回ではないかと思う。

*1:『PLUS MADHOUSE 4 りんたろう』において、りんたろう監督と出崎統監督に対して影響を与えた作品として庵野秀明監督が指摘していたことが紹介されている。りんたろう監督は映画作品後半での絢爛豪華なカタストロフばかりが重視されるが、作品前半では静と動のメリハリで情感を盛り上げていく演出を多用し、出崎演出と同じ雰囲気を感じさせることも少なくない。