法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ベイビーわるきゅーれ』

 殺し屋の杉本ちさとと深川まひろのコンビは、高校卒業後に組織に命じられ、寮からアパートにうつってルームシェアをおこない、殺し屋と並行して一般職にもつくこととなった。
 しかしまひろはコミュニケーションが下手すぎてアルバイトすらできず、コミュニケーションができるちさとも調子にのってはアルバイトを辞めさせられる。
 そしてちさとのヤクザとの不思議な縁から、ふたりはプライベートで人を殺して危機におちいることに……


 阪元裕吾監督脚本による2021年の日本映画。完全オリジナル作品でありながら映画が3作目までつくられ、連続TVドラマもされているヒット作。

 横の移動をじっくり見せられるシネマスコープサイズで、はげしいアクションが適度に見やすい。暴力と失敗をくりかえしながら明るくかけあうキャラクタードラマも楽しい。
 しかし予算は潤沢とはいえなさそう。自室で主人公コンビだけのけだるい時間を何度も見せるし、銃火器の質感は軽くて実際は知らないがモデルガンっぽさを感じた。何よりマシンガンの乱射が当たってそうな壁が破損しないあたり、壊すための美術をつくったりVFXで補う余裕すらなさそうと思わせる。
 とはいえアクションの舞台とアイデアは多彩で、冒頭のコンビニはありふれた空間で戦うシチュエーション自体が楽しいし、クライマックスも建物の構造を利用して2対多で勝利できる説得力がある。女性のスタントも動きがきびきびして、体格のまさる男性スタントに勝てる説得力がある。


 主人公ふたりの実写オリジナルでは珍しい百合っぽい関係も魅力的で、対するヤクザも三者三様の世俗性と反社会性で区別しやすい。特に父ヤクザが良い。いったんダイバーシティサブカルチャーに対応しようとしながらすぐに許せなくなる態度が、根本的に社会とあいいれない凶悪なキャラクターをきわだたせているし、多様性の尊重をギャグにしつつ思想としては否定しない構造になっている。明らかに架空な殺し屋組織はライトに描きつつ、現実に近いヤクザへ観客が愛着をもたないように注意深く描写している。そうした日本映画には珍しいモダンな社会描写として、浅いネットミームを浅いキャラクターが口にするギャグも楽しかった。
 ただ、娘ヤクザがちさとを見逃した経緯は納得しづらい。仲良くなろうとしてから見逃したことで後半の展開につながるわけだが、根幹の選択に納得できないのはプロットホールだろう。娘ヤクザはちさとを見逃しそうなキャラクターとして描いてはいるが、冷酷に計算するキャラクターでもある。強敵を望んでいる用心棒的なヤクザも、ちさとの弱さに興味を失ってはいるが、見逃すほどの理由もない。その場にいるすべてが見逃すことに説得力を出したいなら、もう一押しがほしい。そもそも見逃すのではなく、ちさとが隙を見て窓ガラスをやぶったりして逃げたという展開で良かったと思うのだが、そういう描写が難しいくらい低予算だったのだろうか。